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第313回 2017年1月16日放送

建物を変える、街が変わる 建築家・大島芳彦



建物だけでなく「物語」を引き継ぐ

日本のリノベーションの第一人者と言われる建築家・大島芳彦(46)。間取りや使い方を大胆に見直し、新たな価値を持つ物件に生まれ変わらせる。さらにそれを通じて、地域のつながりやまちづくりにも影響を及ぼしているとして、全国から注目を集めている。たとえば去年グッドデザイン賞に輝いた、築50年の団地のリノベーション。建物は廃虚同然だったが、大島が閉鎖的だった空間を開放したことで、今、人がにぎわう地域の“顔”になっている。
そんな大島の信念は、「物語をデザインする」ことだ。今回請け負っていた大阪・船場(せんば)のとあるビル。オーナーは愛着を抱いていたが、築40年を越えたビルは機能性に乏しく、建て替えしかないと言われてきた。だが大島は、ビルは生かせると断言した。人が集まれるようにと願った創業者の思いをくみ取ることで、建物の個性に注目、複数の人で使うシェアオフィスに生まれ変わらせるプランを提案した。1階にはカフェも。そこには、従業員を家族のように思い、アットホームな雰囲気の会社経営を心がけた創業者の思いを受け継ぎたいという大島の思いがあった。

「古い建物を壊して、新しく建て直すと、過去はリセットされてしまう。先代が何を考えていたのかを理解した上で、それを解釈し直して価値につなげる。それは、他の人にはできないことを生み出す力になるはずなんですよね」

大島は、その建物の歴史にまでたちもどり、物語を掘り起こしていく。そうして、建物をつないでいくのが大島のやり方だ。

写真廃虚同然だった団地は、若者が結婚式を挙げるほど人気に
写真通勤用の自転車は、街の地形を感じる手段でもある
写真打ち合わせは1時間刻み、それをハシゴしていく


街を変える“主人公”を作る

今、全国で急増する空き家や空きマンション。その解消のために大島が力を入れるのが「リノベーションスクール」という活動だ。実際の空き店舗などを対象に、リノベーションの方法を実地で話し合う。地元の人を巻き込み、物件の持つ可能性を徹底的にリサーチ。3日3晩をかけて事業提案を練り上げ、オーナーにプレゼン。OKとなれば、本当の事業として動き出す。
大島がこのとき、なにより大事にするのは、地元のあらゆる業種の人々を巻き込んでいくことだ。地方公務員、銀行員、主婦など。目的は、まちづくりの“主人公を作る”ためだ。

「今の社会構造では、まちづくりはだれか他人にゆだねていて、当事者意識がないんです。でもリノベーションスクールでは、小さなエリアのことを集中して考える。街に対する発見もあるし、年齢が離れた人と共有したり。そうすれば、当たり前のことが当たり前ではなくなるはずなんです」(大島)

この街をつくるのは自分たちだ、という当事者意識が、プレーヤーを育て、街ににぎわいを作り出していく。これまで全国で50件以上の事業提案が実現している。

写真受講生の8割が、地元の若者だ
写真対象物件に何度も足を運び、エリアの特徴をリサーチする


変えるのは、建物ではなくマインド

大島が、リノベーションを仕事として志したのは30歳の頃。大手建築事務所に勤めていた大島。だが、不動産業を営む実家が、古いお荷物物件を抱え、困っているのを目の当たりにしたのがきっかけだった。時代のニーズを直感し、大学時代の仲間とリノベーションの事業を立ち上げた。大島の斬新な手法とデザイン力は注目され、次第に仕事を任せられるようになった。
ところが落とし穴があった。せっかくリノベーションした建物が、わずか数年で再び、借り手が付かないほど荒れてしまうことが相次いだのだ。なぜ手荒く扱われるのか?なぜ自分が手がけたリノベーションは、元に戻ってしまうのか?
そのとき、大島が気付いたことがあった。

「大家さんから、お前ら任せたぞって言われるとうれしくなっていたんですよ。だけどその任せたぞっていう言葉は、当事者意識の放棄っていうか、人任せっていう見方をすると決していいことじゃなかった。最初は建物というハコを気にしていた。でもハコよりも、その大家さんのマインドの方が大事だなと。大家さんのマインドが変わらなければ、今までと変わらない。昔と変わらない」(大島)

だからこそ大島は、オーナーと徹底的に話し合い、一緒に建物や土地の歴史までひもときながら、思いを共有していく。

写真オーナーとの打ち合わせが一番おもしろいと話す
写真2016年のグッドデザイン・金賞を受賞
写真仕事は、アパートから小学校まで多岐にわたる


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

一歩下がって、俯瞰(ふかん)して見ることによって、周りとの関係性を整理して、こういうことじゃないでしょうかとお伝えする。シンプルで、骨太で、伝わりやすい手段で人に伝えるということを考える。伝え方のデザインをするということ。

建築家 大島芳彦