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第311回 2016年12月5日放送

人生は、交錯する光と影 照明デザイナー・東海林弘靖



建物が語る、光を見つける

さりげなく灯(とも)る光・・・。美しい闇・・・。独創的な照明で、世界的評価を受ける照明デザイナー・東海林弘靖(58)。巨大商業ビルから公共施設まで、東海林は“心地よい暗さ”を生み出す。明るさが求められる照明の世界で、「照明デザイナーの仕事は、美しい影を作る仕事。ギラギラした光はストレスだ」と語る東海林。その流儀は、“建物が語る、光を見つける”こと。自らのアイデアを問うよりも、徹底して建物や人の立場にたつ。どんな歴史を持っているのか、使う人はどんな思いにひたるのか、街の中にどうたたずむべきか、“人や建物が欲しがっている光”を探り出す。すると無駄な光はそぎ落とされ、豊かな闇が浮かび上がっていく。「人は闇の中でこそ、心を開き、体をしかんさせる。」という東海林の光と影の世界は、今や、商業ビルから病院や劇場に至るまで多くの注目を集めている。

写真都内の屋上庭園、けん騒の中で異彩を放つ、美しい“闇”
写真心地よい暗さの商業施設、まぶしい光は一切ない


心を、灯す

乳がん治療で日本でも指折りの鹿児島の病院。病と向き合う患者や家族の精神的なケアを行う病棟で、求められる光とは何か?東海林は、“明るいか暗いか”を超えて、心に作用する光を追求する。「明日も明後日も人生の時間を丁寧に歩まなくちゃいけない。その時、光は人生の時間をより豊かなものするために働くべきで、必要なのは“心を灯す光”。」
考えついたのは、角を丸めたおにぎり型の不等辺三角形。動きのある柔らかな線は、見る人の立ち位置で、いかようにも変化する。それは、日々変化する患者の心を、どんな時でも包み込む光だ。「照明は機能を超えて、心に作用するもの。」その信条が、東海林を突き動かしている。

写真“明るか暗いか”機能を超えて心に作用する光を探る
写真病と向き合うがん患者や家族の“心を灯す”病院照明


光の本質は、いのち

2011年、東日本大震災。計画停電により街から明かりが消えたあの日。照明デザイナーとしての自らの存在意義が、根底から揺さぶられた。生涯の仕事とした照明デザインの意味とは、一体何だったのか・・・?2か月後、かねてからの仕事でパプアニューギニアに旅に出た。そこで見た一灯のランプ。電気もガスもない村に灯る、その明かりの意味を問う東海林に、村人は言った。「我々にとって光は、今生きてることの証しだ。この光が村人みんなを安心させる。」
自らの職業人生に壁を感じていた東海林にとって、あまりにも本質的な答え。思わず涙が出た。照明デザイナー27年目にしてたどり着いた、存在意義。
「灯る明かりは、人が生きる証し。」その本質に、東海林は光を当て続ける。

写真“人が生きる証し”を照らし出す、東海林の光


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

必ず前へ進むと。とにかく進めると。ということを、努力すると。間違ってても進むと。早く気づいて戻ると、別の方向を模索すると、それがプロフェッショナルとしての思いですね。いつも、変わらずに持ち続けています。

照明デザイナー 東海林弘靖