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これまでの放送

第310回 2016年11月21日放送

諦めるな、それが魚屋の心意気 鮮魚店店主・門川安秀



漁師の“やる気”を生み 市場に“最良の魚”を集める

朝6時半、門川はセリが開く30分前に市場に姿を現す。門川が30年以上通い続けている市場は、“南郷漁協地方卸売市場”。漁獲量は、都市部の中央卸売市場に比べれば決して多くはないが、市場の前に広がる“目井津漁港”は、大学の研究者が注目するほど、魚の種類が極めて豊富な漁場。目利きで知られる門川にとっては、高級魚からマイナーな魚まで手に入る格好の場所だ。
門川は、セリが始まるまで、市場に並んだ魚を一匹一匹丁寧に目利きしていく。目利きのポイントは、魚の目の膨らみ、エラの色、指で押したときの身の戻り具合だ。これらを長年の経験から総合的に判断し、魚の善し悪しを見極める。そして目をつけた魚には、相場より高い値をつけてでも、必ず競り落とす。魚を安く仕入れられれば、当然利益は増える。しかし、目先のもうけにばかりとらわれては、漁師も市場もやせ細り、いずれ自分に返ってくると考えているからだ。
「漁師のことを考えるよ。『間違いない魚いつも取ってくるから、この漁師のやったら1割2割高く買ってもいい』と。それをすることによって『目井津漁港に魚を持っていくと高く売れるよ。よその港に揚げないで、目井津に持って行こうや』って漁師同士で話題になる。そうなるとここにいろんな魚が集まるわけやから。」

写真セリの30分前には市場に出向き、丁寧に魚の善し悪しを見極める
写真セリに参加する門川、勝負は一瞬で決まる


伝えなければ、文化は守れない

取引先や友人たちから、親しみを込めて“ねこさん”という愛称で呼ばれている門川さんは、とにかく研究熱心だ。市場で見慣れない魚を見つけると、すぐに買いつけ、自分の店に持ちこみすぐに図鑑で調べる。それでも分からなければ、親しい大学教授に聞きに行く。魚の生息域や習性などの知識が増えれば、目利きの精度が上がるという。
そうやって蓄えてきた知識を、門川は積極的に伝える。時間を見つけては、取引先に顔を出し、若いシェフたちに魚の一番おいしい食べ方を提案する。取引先の中には、重要なパーティーや会席の料理メニューを門川に一任する店も少なくない。
「魚という食文化を誰が伝えてもいいとよ。別に俺じゃなくていいわけよ。でも誰かがやらんと。だって あの子たちが育ってくれんと、やっぱり最終的に、日本の食文化って守れんよ。あの子たちを育てるって言ったらおこがましいけど、魚に関してはまだ俺の方がはるかに今まで得てきた知識はあるから。それを起点にアドバイスしてあげてるだけ。」

写真分からない魚があれば、すぐに図鑑をめくる門川
写真珍しい魚が揚がると、すぐに大学に持ち込み見識を深める
写真料理人やマネジャーに魚料理のアドバイスを送る門川


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

最初から最後まで手を抜かんことやろね、仕事に対して。ここまで さばけばよろこんでくれるかなと。相手の顔が出るもんね、次にバトンタッチする人の顔が。やっぱり手は抜けんよね。

鮮魚店店主 門川安秀


放送されなかった流儀

酒を断つことを決めた 若き日の失敗

門川は、深夜の配達を終え、時間に余裕があれば行きつけのスナックで歌うことが唯一の息抜きだ。しかし、門川は酒の席でも一切アルコールを口にしない。その背景には、若き日の失敗があった。門川が鮮魚販売を始めた30代はじめの頃、前夜の深酒が原因で寝坊しセリに出られず、大切な取引先の注文を届けられなかったことがあった。しかし、そのとき取引先のホテルの料理長は怒ることなく、その日のメニューを取り出して「これが作りたかった」とひと言つぶやき、代わりのメニューの準備を淡々とし始めたという。
「思い切り叱られた方が楽だった。俺には何一つ怒らず、悲しそうな料理長の姿を見て、料理人の世界がいかに厳しいか痛感した」と、ねこさんは当時のことを今も鮮明に覚えている。以来、ねこさんは酒を一切断ち、自宅へは帰らず車の中で数時間の仮眠をとるだけの生活を30年以上続けている。自分がさばいた魚は、自分が責任を持って届けるという今の営業スタイルの礎になった出来事。

写真毎日深夜まで自らの手で魚を配達する門川
写真配達が早く終わると、行きつけのスナックで1曲歌う