2013年に無形文化遺産に登録された「和食」。世界的に高まる和食ブームとは裏腹に、家庭では作る機会が減るなど、和食離れが進んでいる。「このままでは、10年後に和食はなくなるかもしれない」と危機感を抱くのが、日本料理人の奥田透(47)。奥田は30年間、食材が持つ旬や素材の力を最大限に引き出す和食の神髄を突き詰めてきたスゴ腕だ。その奥田が和食の未来のためにと、3年前にフランスに乗り込んだ。「食の都・パリで和食が認められれば、もう一度日本でも和食が復権するはずだ」。パリのど真ん中に店を作り、現地で採れた魚や野菜など限られた食材を使い、王道の和食を再現した。しかしその一方で奥田は、日本の店で7年連続で獲得してきたミシュランの3つ星を、2つ星に落とした。それでも未来のためにと、フランスでの挑戦をやめることはない。
そんな奥田に千載一遇のチャンスが舞い込んだ。「フランス料理の革命児」と称される3つ星シェフ、パスカル・バルボが店にやって来る。奥田が勝負の品と決めたのが、チュルボというヒラメの一種。これを日本の伝統技術「活け締め」を使い、鮮度を保ちながら身の熟成を進め、刺身や塩焼きであえてシンプルに提供する。和食を守るためにこそ、攻める。それが奥田の“世界遺産”を守るための流儀。
「(和食が)嫌いなわけではないと思うんですよ。ただ日本人の意識として、なんかあんまり大事にも思っていないんじゃないかなと。だから、問題提起していかないと、気がつかないうちに(和食は)なくなって終わっちゃうものになっちゃうのかなと。どんなに欧米化が進んでも、残さなきゃならない文化は十分あるんじゃないかなと。そこにちゃんとした価値と値打ちをつけるには、やっぱり海外に進出してきちんとしたものを出して、評価されることが一番の近道になるんじゃないかなと」。
「王道こそ最上」 素材の持つ力を徹底的に引き出す奥田
フレンチの革命児、パスカル・バルボとの一騎討ち
「究極」と称される奥田のアユの塩焼き
2014年に無形文化遺産に登録された「和紙」。その中でも、美しく、薄くて丈夫だとされるのが、岐阜県美濃市ですかれる「本美濃紙」だ。通常、和紙は縦方向にすかれることが多いが、美濃では横方向も重視してすかれるため、長い繊維が良く絡み、丈夫な和紙になる。1300年前に正倉院に納められた和紙が、今もきれいに残っているほどだ。
その中でも、極薄で美しい和紙をすくのが、鈴木豊美(63)だ。その和紙は、スミソニアン博物館など海外で文化財の修復に使われるほど評価が高い。
鈴木の元に、今回特別な依頼が舞い込んだ。重要文化財の掛け軸の修復に使うための巨大和紙をすいてほしいという。通常の2倍ほどの大きさの和紙は、この地方でも過去にすかれていたが、今はその技術は途絶えている。伝統の復活をかけ、和紙職人である夫と二人三脚で挑むことになった。 未来に技術を残すために、歯車に徹する。それが鈴木の流儀。
「過去にはすいていたので、それを中間の自分がすいて、また若い人たちにも残していかなきゃいけない。変哲もない白い紙ですけど、すいてみたっていう実感が湧いて(次の世代の人と)話ができるのが、ちょっと楽しみかな」。
1300年の伝統を受け継ぐ、鈴木の技
最大のポイントは、「水を気持ち良く動かす」こと
途絶えていた巨大和紙の技術の復活に、夫と共に挑む
2008年に無形文化遺産に登録された、人形浄瑠璃文楽。太夫の語りと三味線の音に合わせ、人形を操っていく芝居だ。しかもその人形は、三人一組で操られ、世界でも類をみない形式だ。足を操る「足遣い」、左手だけを操る「左遣い」、右手と頭を操る「主遣い」、それぞれが呼吸を合わせひとつの人形を操っていく。
人形遣いで「今最も華がある」と称されるのが、三世・桐竹勘十郎。息づかいや微妙な間接の動きまでディテールに徹底的にこだわる表現は、生身の人間以上に感情を訴えかけてくるという。高度な技術が必要とされる人形遣いは、「足遣い10年、左遣い15年」と言われ、技術の伝承は困難を極める。それでも勘十郎は、技術だけではなく、その人形が持つ「性根」と呼ばれる役の生きざまを考え抜き、常に新しい表現を模索し続けている。
「『遺産』っていうと動いていないもの、活動していないもの、死んでしまったものみたいなイメージもちょっとあるんですよね。ずっと一度も絶えたことがない、文楽はね。300年以上ずっと続いてるもので。ずっと変わらないやなしに、ちょっとずつ進化をしながらいまだに生きている芸能。これからも進化を少しずつながら、進化をしながら生き続けると僕は信じてますので。一日一日、一舞台にかけるみんなの気持ちと、文楽を愛する気持ちが強ければ僕はなんとかできると思いますけども。それでも普通にやっていただけでは、あきませんわ」。
50年間、毎日伝統の技を突き詰めてきた
「文楽を進化させる」。 本番直前まで台本を読み込む
「『遺産』とは言わせない」。弟子とともにもがき続ける
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