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これまでの放送

第303回 2016年9月5日放送

作るのは、ともに歩む足 義肢装具士・臼井二美男



言葉にならない期待に、応える

数多くの義足アスリートをパラリンピックにおくりだし、競技用義足作りの第一人者として知られる臼井二美男(61)。しかし臼井が手がけるのはそうした特別な義足だけではない。日常的に使用する生活用義足作りこそ、臼井が最も大切だと考える仕事だ。
臼井が大事にするのは、はく人のことを一番に考えた義足作り。義足は、はく人の体にあわせて一つ一つオーダーメードで作られる。なかでも履き心地をきめる重要な部分が、切断した足を入れる「ソケット」と呼ばれるパーツだ。一般的にソケットを作る際、腰まわりや足の長さをメジャーなどで計測する。しかし、臼井がたよりにするのは手の感覚と目。道具を使わずに、足の大きさや特徴を的確につかむ。
「ここが何ミリ何ミリというのは作る側のただのデータで。数字のことで議論するっていうのは、あくまで技術者側の話。お客さんはそんなの関係ないんですよ。数字よりも快適で美しくて、はきごこちがいいっていうものを求めてるわけだから。」

さらに臼井がこだわるのは履き心地だけではない。はく人との会話を通じてその人が義足で何をしたいかを聞き出し、目的に応じた義足を作る。薄手のスカートをはきたい人には、ラインが目立たないコンパクトな義足。ミニスカートがはきたい人には、本物の足そっくりの質感のある義足。これまで400人以上の、ささやかな希望をかなえてきた。
「義足にかける期待とかかける望みが必ずあって、はく人とその家族には。言葉にはならなくてもそういう思いをもって訪ねてくる人がけっこうたくさんいますから。それにはこたえなきゃいけないっていう。それは使命みたいな感じでしょうね。」

写真臼井は毎朝、誰よりも早く出勤する
写真会話を通じて、はく人がどんな義足を求めているかを見極める
写真ミニスカートをはきたい女性のために作り上げた義足


とことん、つきあう

ことし5月、臼井の元に難しい依頼が舞い込んだ。事故で両足を失った女性。義足でハイヒールを履きたいという願いを持っていた。しかし、女性の両足は切断面がかなり傷ついているため、歩く度にソケットにすれて痛みがはしる。義足をはいて長時間歩くことすら難しい状態だ。ハイヒールを履くには、足への負担が大きすぎる。
この道33年、第一線を走り続けてきた臼井も頭を抱える状況のなか、いかにして女性の願いをかなえることができるのか。
「口でいくら、いいの作りますとかなんとかしますとか言っても、最後はモノとして受け入れてもらわなかったら終わらないから。心、気持ちとかだったらうやむやにできるんですよ。義足はやっぱりモノなんで。ここが痛いと言ったらここが痛いわけで、それをなんとかするしかない。」

写真女性のソケット作りにとりかかる臼井
写真納得のいく義足ができるまで、妥協はしない


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

その人が求めてるものより、いいもの作りたい気持ちになったり。その辺考えると自分との戦いみたいなのありますよね。

義肢装具士 臼井二美男