IT企業経営者・川上量生(47)。視聴者が動画にコメントをのせられるネットサービスや、高音質の携帯着信メロディなど、独創的なサービスを次々と世に送り出してきた。常に15ものプロジェクトを抱える川上には、どんな企画にも貫く大原則がある。それは「無いものを、作る」というものだ。
「無いものを作るのが重要で。ニーズがあるんだけど、まだ世の中にないものを僕らは作ろうとしているだけなんです。競争相手がいなければ、好きな道を歩めるし、そこにはユニークな歴史が生まれますよね。他の誰かができることはその人がやればいい。自分がやらなければ起こらなかった歴史はおもしろいかなって思います」
オリジナリティに徹底的にこだわることで、川上は時代を切りひらく大ヒットを飛ばしてきた。
仕事は、打ち合わせの連続。
千人の社員を束ねる経営者でありながら、現場主義を貫く。
専門家を雇って、高度な数学を勉強。
独自の発想を生み出すために、あえて仕事以外のことに打ち込む。
常識破りの企画を生み出す川上だが、そこには突拍子もないひらめきはないと言い切る。
「僕は理屈を信じているんで。自分ではアイデアだと思っていない。理屈なんですよ」
会議で、おもしろい企画を思いついたとしても、それだけで決して突き進むことはしない。「なぜこの企画が今までやられていないのか」を必ず分析するのが川上の流儀だ。
「天からのひらめきは信じていないんですよ。アイデアは情報量で決まるから、他の人も思いついている可能性がある。それなのにやられていないということは何か原因があるはずで、それが分からない限り失敗するんですよ。実現されていない理由を分析して、クリアできると判断できたら、実行に移すという感じですね」
企画の本質を洗い出すために、板書で要点を整理。
理系の川上、常に論理的に考える。
会議で新企画を思いつくと、すぐに「なぜ今までやられていないのか?」、分析しあう
2006年に川上が生み出した、インターネットの動画投稿サイト。動画にコメントをのせ、大勢で盛り上がる機能が受け、動画投稿数は日本最大級を誇る。
思ったことをただ書き込むだけで、社会的な意義はないが、そこにこそ川上は人間の本質があると考えている。
「(この動画サイトは)役に立たないんですよ。基本は全てが無駄。でも、無駄なことをやっているのが実は人間だよっていうところで『まぁいいか、ハッピーだし』と、みんなが思ってくれたら、世の中のために一番いいと思うんですよ。人間は大したことなくて、立派なのは理想ですよね。今はその理想が世の中を支配していて、すごく息苦しい世の中になっている。科学がどんどん発達していくと、人間の居場所はなくなりますよ。人間をあるがままで認めていく“現実肯定”が重要だと思っているんですね」
川上が生み出した、動画投稿サイト。
視聴者が思ったことをコメントでき、会員数は5,000万人を超える。
川上の会社が主催するイベントにて。
自ら“無駄”を楽しむ。