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これまでの放送

第300回 2016年8月1日放送

腕ひとつ、飛行機を守る親分 整備士・杉本好夫



作業者になるな、整備士であれ

2,800人の整備士の頂点に立ち、「親分」の愛称で慕われるスゴ腕の職人、杉本好夫(59歳)。この道42年、髪の毛1本よりも繊細な精度で修理する“神業”整備士だ。
そんな杉本の職場はふだん目にすることができない世界だ。多くの整備士は機体全体をチェックするが、杉本はエンジン専門。エンジンは240人の整備士が担当に分かれ整備する。まず分解チームが1センチの部品までバラバラに分解。さらに洗浄チームや検査チームがわずかな傷までチェックする。そして修理可能な部品があれば杉本たち修理チームの出番。溶接と研磨で新品と見まごうほどに修理する。
ある日、エンジンの激しい振動によってすり減った部品を元の厚さに戻すという依頼がきた。ミスは許されない。杉本は重圧の中、5時間集中力を切らさず部品と向き合い、修理した。
しかし杉本は修理するだけでは満足しない。頼まれてもいない箇所を研磨し、見落とされた傷がないか念には念を入れてチェックする。「作業者じゃなくて整備士になれと。言われたとおりやってりゃ別に間違いじゃないんでその方が楽ですよね。だけど整備士ってそこを一歩進んで自分たちがやった仕事で不安が残るような仕事はしちゃいけなくてドーンと胸張ってね、やってる仕事は完璧だよっていうことをやらないとね」

写真7メートルの巨大エンジンをバラバラに分解
写真頼まれていない箇所まで研磨
写真わずか2ミリの玉を溶接。その腕は神業と呼ばれる。
写真防音用の耳栓は必需品


“縁の下”の、誇り

スゴ腕職人の杉本たち修理チームはほかのチームから腕を頼られ、“最後のとりで”と呼ばれる。
ある日、分解チームから部品が抜けないと相談がきた。「人の力では固くて抜けなかったので」。
これまでにない問題が起きても、杉本はすぐにはあきらめない。どうすれば直せるか、徹底的に考え、修理を行う工具すらも自ら作りあげる。
「プレッシャーは確かにあるんですけど、できませんっていうのは僕の中では許されないことだと先輩からずっと受け継いでるんで。それが結局、整備士としての誇りなんですよね。僕らの仕事って一般的には縁の下の力持ちですよね。表に出ないだけ自分たちの誇りだけでやってやる!って」

さらに今回、緊急修理の依頼が飛び込んできた。異変が起きたのは小さな部品。わずか1センチのナットがボルトにくっつき、交換すべき部品が外れない。分解チームは困り果てていた。「我々じゃ絶対に無理です。(ボルトが)折れてしまうとタービン自体が使えなくなっちゃうんで」。
飛行機の安全のためには、間違いなくナットを外さなければならない。長年、飛行機の安全を守り続けてきた杉本にとっても初めての経験だ。
修理の方法はただ一つ、ナットを削って外す方法だ。ナットの表面をボルトが露出するギリギリまで研磨し、ボルトを締めつけている力をゆるめて外す作戦だ。0.1ミリでもボルトの山を削ってしまうと失敗となる。決してミスできない重圧がのしかかる杉本の仕事。巨大な飛行機を守るため、こうした息の詰まる細かな仕事を続けて42年。自分の腕ひとつを信じ、飛行機を守る「親分」の仕事をドキュメント。
「失敗しちゃったらどうしようかな。やらかしちゃったらすごく大きなことにつながるので、そのプレッシャーは確かにあるんですけど、僕らの職場が本当に“最後のとりで”なんで。考えてやるしかない」

写真1センチのナットの上部を削る杉本
写真100分の1ミリの精度でナットを削った


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

今、自分ができる仕事の出来栄えに、妥協・満足するのではなく、昨日よりもきょう、きょうよりもあすという風に絶えず向上心を目指して頑張っている人が僕にとってのプロフェッショナルです

整備士 杉本好夫


プロフェッショナルのこだわり

杉本は休み時間に全国の空港や退職者への贈り物を作る。ジェット機の廃棄部品を使って作るのは、高さ10センチのオブジェ。さまざまな部品を自在に組み合わせ、あらゆる修理に対応できる、臨機応変さを鍛えている。

写真廃棄部品を組み合わせたオブジェ
写真徳島の空港には阿波おどりオブジェ