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第299回 2016年7月11日放送

革新は、チームで起こす デジタルクリエイター・猪子寿之



1人の天才より、チームの力

子供がクレヨンで描いた魚の絵がスクリーンのなかを泳ぎだす“お絵かき水族館”など、いま話題のデジタルアートで、世界から熱い注目を集めるデジタルクリエイター猪子寿之(39)。
斬新な発想が高く評価されるが、その創造の現場は、眉間にシワ寄せる葛藤の場ではなく、意外にも笑いが絶えないものだった。猪子が代表を務める会社の打ち合わせ室。専門も経歴も違う者同士で、最新情報を交換し、そこから生まれた発想を徹底的にぶつけ合う。中でも、時に実現不可能なほど突拍子もない意見を出すのが、猪子だ。もともとエンジニア。プログラムも書いていたが、得意ではなかったという。その部分は得意な人に任せ、自分は得意の「発想」に力を注ぐと決めている。

写真専門が違う者同士で、アイデアをぶつけあう
写真つくり出すアートは、国境を超える


自分が求める場所は、自分で作るしかない

四国・徳島に生まれた猪子。小さいときから、ちょっと変わったことを考えていた。「この世界は、どうなっているんだろう?」学校で授業を聞いていても、「ほんとは違うかも?」と、自由に想像を膨らませる猪子に、先生は厳しかった。模範的ではない解答は否定され、考える先にあったかもしれない“真理”を求めることは許されなかった。
「(みんなは)なんで考えないんだろうって思ってた。まあいいやと思って黙ってたよね」。
ずっと学校に窮屈さを感じていた猪子は、大学に入る頃、TVで衝撃を受ける。NHK「新電子立国」で放映されたアメリカの若者たち。インターネットという新しい世界を作ることで、世界を自分たちの価値観の方へと寄せようとしていた。しかし東京大学に入学しても、そんな場所はどこにもない。そうして卒業する頃、猪子は気づいた。自分が求める場所は、自分で作るしかないということに。今の会社を立ち上げたのは、卒業間際の23歳のときだ。
「23ぐらいになってくるとさ、天才じゃないことに気づくじゃん。世の中には天才や、超賢いヤツがいっぱいいるんだなと思って。それでも、いいものは作りたいから、自分1人では無理かもしれないけど、何か自分の知らないことを知っている人たちと一緒にチャレンジしていければ、個人では到底作れないようなものが作れるんじゃないかなと思った」。

写真猪子が自ら作った「場」に、さまざまな専門をもつスタッフが400人以上集う
写真自由なものづくりを常に模索。発想が生まれそうなときは、どこまでも粘る


デジタルアートだからこそ、できる表現がきっとある

今年3月、シンガポールにあるアートサイエンスミュージアムの新展示に取りかかった猪子。テーマは、さまざまな動物が棲む「命の森」。ワニ、トカゲ、カエル・・・などの動物が“食物連鎖”の関係でつながり、「生態系」を表現するという挑戦的な仕事。
しかし、食物連鎖の頂点に立つワニが他の動物を食べつくしてしまったり、調整は試行錯誤の連続。それでもチームは粘り続ける。
「実際の森には生態系があるけど、森は広大すぎて、時間軸も長すぎるから、生態系を感じる瞬間もないよね。20年ぐらい森の中にいたら、“生態系の神秘”を感じられると思うんだけど、3時間ぐらい森に行っても、なにも感じられないでしょ」。
現実の森に行っても、教科書や図鑑をひらいても、感じられないことがある。猪子は、デジタルアートだからこそできる、生態系の表現がきっとあると考えていた。

写真生態系作りは難航、一時はワニだらけに
写真デジタルアートならではの可能性にこだわる


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

いろんな大事なものを、捨てちゃってる人じゃない?

デジタルクリエイター 猪子寿之