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スペシャル 2016年6月6日放送

巨大港スペシャル 日本の経済を支えるプロたち ~密着!名古屋港~



川の流れのように

名古屋港から運ばれる自動車は、専用の船に乗せられ海外や国内に届けられる。年間輸出量は、海外だけでも、年間130万台以上をほこる。
そしてそこには、大量の車を船に積み込む専門のプロがいる。
40名以上のドライバーたちを指示するのが、近藤賢二(46)。「ハッチ ボースン」と呼ばれる、いわば船内作業のボスだ。言葉を使わず、手のサインと笛だけでさまざまな車を船内に誘導し、傷ひとつ付けず、隙間なく積み込んでいく。その数、1,000台以上。次々と流れてくる車の車種、大きさ、そしてドライバーの力量を見極め、積み込む場所を、瞬時に判断していかなければならない。
どんな不測の事態が起ころうとも、時間内に確実に終わらせなければいけないこの仕事の極意を、近藤は「川の流れのように、はやいところははやく、ゆっくりなところはゆっくりと。一台が止まってしまうと後ろが全て止まってしまうので、必ず動いている状態」にするのがよいと表現した。

写真40名以上のドライバーたちに指示する「ハッチ ボースン」近藤賢二さん
写真ギリギリの幅で止める駐車技術
写真ドライバーの力量を見極め、積み込む場所を、瞬時に判断する
写真新人への合図「余裕を持って止めろ」


匠(たくみ)の技はいらない

日本一の貿易量を誇る名古屋港の物流を支える、安全航行のプロフェッショナル「水先人」井上道彦(69)。
名古屋港周辺は、漁船、貨物船、タンカーなど、常に大小さまざまな船舶が集中し、混雑を極める。また航路が複雑に入り組むなど、国内主要港の中でも航行が難しい港とされる。そこで、実際に大型船に乗り込み、船長に代わって船舶を安全かつ迅速に導くのが水先人の仕事だ。
現在、この地域で働く水先人の数は112人。その中でも卓越した技術と人柄によって海の男たちからあつい信頼を得ているのが、一級水先人・井上道彦。
井上の水先人としての信条は、極めてシンプル。「安全に勝るものは何一つない」。
全長数百メートル、総重量10万トン近い巨大船の操船において、最も注意が必要なのが岸壁への着岸。少しでも勢い余って着岸すれば、岸壁はいとも簡単に大破してしまう。
井上は細心の注意を払い、出来うる限りソフトな着岸を目指す。
井上の着岸方法は、まず岸壁に対し平行に船をとめ、タグボートで船を押しそのままソフトに着けるやり方。しかし、よりスピーディに着岸したければ別の方法もある。
平行にとめず、船の頭を岸壁に斜めに突っ込み、お尻だけを押すやり方だ。
井上の腕なら十分に出来る方法だが、彼は決してそれをしようとしない。
「キキキっと止まって、サッと着けたらカッコいいかもしれない。しかし間違っても事故を起こさないためには、そんなカッコいい操船は出来ない。いわば船の操船で“匠の技“を見せることはない。むしろ大事なことは、安全そのもの。」
水先人事務所には、一仕事終えた井上の姿があった。井上は、自分の操船データを見直し、そこに改善の余地が無いか振り返っていた。

写真一級水先人・井上道彦さん
写真手前のパイロットボートに乗り、巨大貨物船へと向かう
写真注意深く海の様子を見る井上さん
写真最も注意が必要な着岸作業。微調整を繰り返す。


真心を、添える

寄港する船に食料や日用品を届ける「船舶食糧品商」。通称、「船食」。名古屋港で50年間船食を営む刀禰(とね)昭子(72)は、船員たちから頼りにされる「名古屋港のママさん」だ。刀禰の元には年に600隻以上の船から注文がくる。また船員の国籍はフィリピン人にインド人、ロジア人やベトナム人などさまざま。外国人船員の求める難しい注文でも、刀禰は決して断らない。それは外国航路の船にとって食料は死活問題だと知っているからだ。
そんな刀禰には、あるこだわりがある。それは野菜と果物の鮮度。長い航海を続ける船員たちのために少しでも鮮度の良いモノを食べてもらいたいと、どんなに忙しくても、野菜と果物は船に配達する直前に仕入れると決めている。ただオーダーどおりのものを届けるのではなく、鮮度という“真心”を添えるのだ。
「オーダーどおりのものを納めてあげるのは100%大事なんだけども、そこんところに私なりのアイデアを入れてあげるというのは、絶えず心がけている。それは真心。真心以外なにもない。」

※刀禰さんの「禰」の偏は「示」が正しい表記です。

写真新鮮な品物を探し求め、市場を走り回る刀禰昭子さん
写真この日は20日分の食料をフィリピンの船員に調達した

写真「名古屋港のママさん」と慕われている

写真誰にも負けない仕事への情熱が自信につながる


チームひとりひとりの表情に 答えはある

日本一の貿易港、名古屋港。その心臓部ともいえる飛島ふ頭には、毎日のように大型コンテナ船が横付けされている。沿岸でのコンテナの運搬に使われるのは、特殊な大型重機。中でも進行方向に向かって横向きに座る、ストラドルキャリアと呼ばれる重機は、操縦が極めて難しい。信号もないターミナルの中を何台もが行き交う。だが、名古屋港では導入以来、死亡事故ゼロを守っている。輸送実績トップを誇る会社に、重機を操る55人の作業員を束ねる男がいる。監督、高野勝司(54)。高野は朝一番に来ては、作業員のために毎朝ゆで卵を作る、人情深い監督だ。
高野が監督として大切にしていること。それは、作業員の安全を守るために、チームひとりひとりを見るということだ。高野は朝や夕方などに必ず皆に声をかけ、健康や心の状態などを見ている。声かけは徹底しており、例えば服用している薬の成分に眠気を起こすものがないかまでつぶさにたずねる。そうしてチームひとりひとりを見ることが、チームの安全につながると考える。
「安全に何事もなく運ぶということは簡単なようだけど、単純なんだけど、それが私たちの品質。品質を大事にするにはやっぱり一人プレイというのはできないしね。どうしても付いて回るのはチームなのでチームプレイになってくるんよね」

写真毎日欠かさず作るゆでたまご
写真ストラドルキャリア
写真作業員ひとりひとりの表情に気に配る
写真作業場をチェックする あえて時間は決めないという
写真作業が終わった新人・山崎さんに声をかける


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

近藤「常に平常心を保って、当たり前のことを当たり前にやることだと思いますね」井上「自信を持って仕事に当たって、責任は全部自分が取れると明言できるような、ときには頑固であってもいいそういう人間だろうと私は考えております」刀禰「誰にも負けない仕事への情熱だね。それを持つことが仕事の自信につながる。その道のやっぱりいつまでもプロでありたいなと思ってます」高野「決して満足しないことでしょうかね。今日より明日。 明日よりまた次っていうふうにね。満足してしまったら終わりなんで。人は伸びないと思いますんでね。絶対満足はしてはいけないということで」


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

名古屋港で活躍する“個性派重機たち”

重機を操るプロたちも、日本の貿易を支える影の立役者だ。


グラブ浚渫船「中工丸」

大きな河川が複数流れ込む名古屋港は、土砂の流出、堆積によって浅瀬ができやすいのが特徴。浅瀬は船舶の運行に支障をきたすため、名古屋港では浚渫船(しゅんせつせん)と呼ばれる船によって一年中土砂の除去が行われている。そこで力を発揮しているのが、グラブ式浚渫船・中工丸。重さ40トンの巨大な鉄製グラブで海底の土砂をつかみあげ除去。一度になんとダンプカー3台分の土砂をつかむ。
ベテラン船長の笹谷政和さんは、固さが違うヘドロ、砂、泥、など海底の状況に柔軟に対応し、浚渫を行っている。
スペック:2,000馬力 最大つり上げ荷重140トン 浚渫深度30

写真重さ40トンの巨大な鉄製グラブ
写真元マグロ漁師のベテラン船長 笹谷政和さん
写真ヘドロ、砂、泥など海底の状態に応じ、浚渫する


名古屋港で最も巨大な重機 ゴライアスクレーン

旧約聖書に登場する巨人「ゴリアテ」から命名された。
高さ82メートル、横幅180メートル、高層ビル27階分に相当するモンスタークレーンだ。
最大積載荷重400トン、実に大型バス25台分を持ち上げられる。
このドッグでは、ゴライアスクレーンを使い、LNG(液化天然ガス)のタンクや、石油掘削船を建造している。
この道20年のベテラン・山本さんが、地上80メートルに突き出した操縦席に座り、クレーンを手足の延長のように巧みに操って、船の部品を運搬している。

写真名古屋港で最も巨大な重機ゴライアスクレーン
写真操縦席から見る景色。下が丸見えになっている。
写真この道20年のベテラン・山本さん