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これまでの放送

第293回 2016年5月9日放送

どんな絶望にも、光はある 自殺対策NPO代表・佐藤久男



“鏡”に徹する

長年自殺率ワースト1だった秋田県。しかし、この10年で自殺者を半減させ、20年ぶりに自殺率ワーストから脱した。その立役者が“命の相談員”、佐藤久男(72)。佐藤のもとには、経済的な問題や精神的な病気などで自殺を考える人々が次々と駆け込んでくる。その多くは、複雑に絡んだ問題を一人で抱え込み、八方塞がりになっている。そこで佐藤は「“鏡”に徹する」ことを心得とする。あえてアドバイスはせずに、苦しみを一つ一つ吐き出させていく。面談は、平均2時間。気持ちを語りきった相談者の多くは、おのずと気持ちが静まるという。さらに佐藤は、「相手の悲しみを映し出すと、その中に解決の糸口も見えてくる」といい、相談者が吐き出した言葉の中から、問題解決の一手を共に見いだしていく。活動15年目、4,000件を越える面談を行ってきた佐藤の相談所は今や、“命の駆け込み寺”呼ばれるようになった。

写真“いかにものを言わないか”傾聴に徹する佐藤
写真1日8時間以上、苦しみを聞き続ける日もある


暗闇に、一筋の光を探す

自殺を考える人の悩みは、経済問題、人間関係、精神的な病気などさまざまだ。その多くは、問題が絡みすぎてどこから手をつけて良いかわからず、真っ暗闇にいるような気分に陥るという。そんな時、貫く流儀は、“暗闇に、一筋の光を探す”。「たとえ1%でも希望があれば、人は生きていける」と信じる佐藤は、どんな絶望にも、突破口を見いだす。その時、力になるのが連携する専門家たちだ。佐藤は、弁護士、司法書士、臨床心理士などおよそ30人の専門家とともに、問題解決にあたるネットワークを作り上げた。「ここに来たら、あなたを死なせない」と、一人の命をみんなで救う。一方、自殺予防を学んだメンタルヘルスサポーターという各地のボランティアや、自治体、大学、メディアとも連携。こうしてあらゆる角度から自殺対策を行う取り組みは、「秋田モデル」と呼ばれ、自殺問題を解決するヒントとして、期待を集めている。

写真専門家との連携で“一つの命をみんなで救う”
写真自殺対策に携わる各地のボランティアたちとも連携


終わりは、ない

かつて秋田有数の経営者だった佐藤。しかし16年前、日本経済の不況が続く中、会社は倒産し、自己破産した。従業員や家族への罪悪感で、自殺を考えるほど追い詰められた。そんなある日、経営者仲間が、事業の不振に悩み自ら命を絶った。「なぜ地域社会を支えてきた人が、死ななければならないのか」。沸いてきたのは、悲しみではなく怒り。この死をきかっけに佐藤は、どん底からはい上がり、たった一人で自殺対策に乗り出す。この11年で、秋田県の自殺者数は519人から269人にほぼ半減した。しかし、200人を越える人が今も、自ら命を絶つ。「自殺対策を行う人は喜ぶような感情にはならない」と語る佐藤の自殺対策に、終わりは、ない。

写真地獄を味わった過去、どん底から自殺対策へ


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

人がやらないことでもね、やれると信じてね懸命にね、頑張り通す。己を信じて、どこまで前進する人じゃないですか。

自殺対策NPO代表 佐藤久男