スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第292回 2016年4月11日放送

己を追い込み、未到の味へ 焼き鳥職人・池川義輝



近火の強火

日本一予約が取れないと言われる焼き鳥屋の店主、池川義輝(44)。素材の味を極限まで引き出した焼き鳥は、未体験の感動を呼ぶ。
池川の焼き技の特徴は、常識外れの“近火の強火”。一般的に焼き鳥は、中まで火が入るまでに表面が焦げたり、焼きムラができたりするため、炭と串を10センチ以上離してじっくり焼いていくのが常識だ。しかし、池川は「遠火でゆっくり焼くと、その間に肉汁が流れ出てジュージーではなくなってしまう」と、わずか間隔1センチの近火で攻める。350度を超える高温で表面を素早く焼き固めることで、中から出る肉汁を閉じ込めるのだ。一つ間違えれば黒焦げになる高度な技。池川は、開店から閉店まで7時間、串を絶え間なく回転させ続けることで、表面温度を操りながら芯まで火を通していく。「どれだけ一本の串の気持ちになれるか。素材に合わせて、自分を追い込まないと、いい焼きはできないと思う」。

写真刻々と変わる肉の表情に目を凝らす。
写真“近火の強火”。肉と炭がくっつきそうなほど。


“自分は未熟者”

焼き鳥の世界の最前線を突き進む池川だが、28歳まで会社勤めをしていたため、この道を歩み始めてまだ16年だ。そんな池川は、常に“自分は未熟者”だと言い聞かせている。「いいものが出せたなんて、今まで思ったことは一度もないんです。もっとおいしいものを焼けるんじゃないかって悩み、試行錯誤を続けている日々です」。“鶏肉を串に刺して焼く”というシンプルな料理の可能性をどこまでも追求するために、自らを戒め、律し続けるのが池川の流儀だ。

写真指は常にやけどの状態。
だが、「おいしく焼ければ、全然痛いとは思わない」と言う。

写真正確かつ迅速に行う「串打ち」。
素材の味を引き出すため、一つ一つの工程を突き詰める。


自分を出すな、素直になれ

自分ではなく、素材のことを第一に考えて仕事を行う池川。しかし、弟子入りした当初は、「焼き鳥なんてタレか塩つけて、焼き色つけて出せば済む」と簡単に考えていた。しかし、いざ焼き場に立つと、炭に翻弄され、肉を焦がしてしまう失敗の連続。
そんな池川を、師匠は「自分のことばかり考えているから、いいものが焼けない。もっと素直になって、相手のことを考えて焼け」といさめた。
それから池川は、レバー、皮や砂肝などいったそれぞれの部位の特徴を把握し、それらの持ち味を最も引き出せる串打ちや焼き方を模索していった。そして、念願の独立から10年たった今も、池川は気を緩めることはない。

写真素材の味が最も出ている新メニューは何か。弟子と議論を重ねる。
写真カウンター17席の店は、常に満席。
一人一人に最高の一串を提供すべく、焼き場に立ち向かう。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

相手に対して、素直に向き合い、日々格闘し続ける人。それがプロフェッショナルだと思います。

焼き鳥職人 池川義輝