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第290回 2016年3月21日放送

あがき続けろ それがメロディになる 作曲家・佐藤直紀



映像の奥底に、答えがある

「ALWAYS 三丁目の夕日」「龍馬伝」など、映画やドラマなどの話題作を次々手がける、作曲家・佐藤直紀(45)。これまで作った曲は、3千以上。その腕を頼り、映画監督などから依頼が殺到している。仕事場は自宅地下のスタジオ。20台もの音響機材を駆使し、たった一人で壮大なサウンドを作り上げる。テーマ曲だけでなく、場面に応じた音楽を一作品につき、数十曲も作る。依頼に応じて、曲調やスタイルを自在に変えてみせる佐藤は、自らを作曲家ではなく、「作曲屋」とたとえる。
作曲の中で、佐藤が貫く流儀がある。それは、映像を何度となく見続けること。時には、数百回繰り返し見る。メロディが天から降ってくることはない。映像の中に、作り手の伝えたい意図やイメージをくみ取り、どんな音楽がふさわしいかを必死に考えるという。
「ここはこういうパターンで書けばいいのね、なんてやると全然クリエイティブじゃないですよね。やっぱり何十回、何百回も映像を見て、ひたすらそこから読み解くしかないです。映像を見て、その空気や匂いを感じ取って、どんな音楽が一番はまるかを探り続けるんです。」

写真多くの音響機材を駆使し、ひとりで壮大なサウンドを作り上げる
写真音楽を生み出すには、映像をひたすら見続けるしかない


あがいて、あがいて、あがき抜く

佐藤の作曲は、簡単には終わらない。難しい曲になると、必ず一度立ち止まり、自分の曲を客観的に見つめる。そして、納得できる音楽を作り上げるまで曲を書き直し、ひたすらあがき続ける。
佐藤は、自分に音楽の才能があると思ったことはないという。作曲を始めたのは、中学生の時。やがてテレビドラマの音楽にひかれ、音楽大学に入学。卒業後、CMでデビューを果たすが、周りには腕の立つ作曲家ばかり。月に数本の仕事で食いつなぐ日々を過ごした。そのころ、仕事先からいつも、「佐藤さんの個性が見たい」と言われた。自分の個性とは何か?佐藤は悩み続けたという。転機が訪れたのは、10年目につかんだ映画の仕事。求められる曲のレベルの高さに、佐藤は悪戦苦闘した。できることは、ひたすら映像を見続けることだけ。体から絞り出すように、何度も曲を直し続けた。やがて、映画は大ヒットした。
以来、どんな仕事でも最後まであがいて、注文に応えてきた佐藤。いつしか、そのメロディは「佐藤節」とも呼ばれるようになった。
「個性は出そうと思って出るものではない。とことんあがき続ける中でにじみ出てくるものが、個性になるのではないか。」
作曲家になって23年。佐藤は今、その思いで音楽に向き合っている。

写真何度もあがきながら、1曲1曲を書き上げる
写真仕事の合間、トレーニングで体を鍛える


最新作を、最高傑作にする

去年夏、佐藤は3年にわたって放送されるNHKの大河ファンタジー「精霊の守り人」の音楽を作ることになった。そのテーマ曲で求められたのは、パワー。そして、一度聞いたら忘れられないメロディが欲しいという。
何度も映像を見続けるうちに、佐藤は、主人公バルサの女性らしい美しさと強さを表現したメロディを作り上げた。しかし、制作スタッフの反応は微妙だった。テーマ曲として、何かが足りないという。
心揺さぶるメロディは生まれるのか。佐藤のあがきが、再び始まった。
45歳の佐藤は、自分が作曲家の第一線に立てるのはあと10年が限界だと考えている。自分に課しているのは、「次の曲は、一つ前の曲を超える」ということ。常に最高の音楽を目指す覚悟で、佐藤は1曲1曲に挑んでいる。
「いいものを作らないと次はないという覚悟は当然あります。一番新しい作品に関しては、これまでの僕の音楽の中でベストを作りたい。そこを目指しています。」

写真大作ドラマ「精霊の守り人」のテーマ曲に挑む
写真常に最高の音楽を目指す覚悟で、仕事にのぞむ


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

オーダーに応えることなんですよね。オーダーに100%、120%応えること。作曲家として、プロフェッショナルだなんて全く自分では思ってなくて・・・むしろ、いつ化けの皮がはがれるか、ひやひやしてますけどね。

作曲家 佐藤直紀