土木エンジニア・阿部玲子は、建設現場の事故を未然に防ぐための「安全管理」のプロとして、安全に対する意識が希薄な途上国で大きな実績を上げてきた。特にインドでは表彰も受け、世界からその知識と経験を乞われる存在にまでなっている。
海外に出て20年。阿部が、海外で仕事をする上で大切にしているのが、「日本を押しつけず、日本を捨てない」ことだ。日本の安全管理の手法や考え方を全て、途上国で適用しようとしても、現場はまったく動かなくなってしまう。文化や風習の壁を越えて、人々の意識を変えるには、日本のやり方にこだわらず、合わせるべき所は合わせることが必要だ。
しかし、現地の文化に合わせすぎては、本来の目的である現場を安全に変えることはかなわないと考える。
今回阿部は、インドネシアの地下鉄の工事現場で、地下にある食堂を見つけた。阿部は即座にこの地下の食堂を安全意識の向上の場として生かせないかと言い出した。インドネシア人は屋台の食堂などに集い、仲間たちと時間を過ごすことが多いからだ。日本のやり方を押しつけず相手に合わせ、その一方で本来の目的である安全意識の向上をどう計るか。そのバランスの妙こそが、阿部のプロたるゆえんなのだ。