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これまでの放送

第282回 2015年11月30日放送

誰かが行かねば、道は拓(ひら)けない 土木エンジニア・阿部玲子



日本を押しつけず、日本を捨てず

土木エンジニア・阿部玲子は、建設現場の事故を未然に防ぐための「安全管理」のプロとして、安全に対する意識が希薄な途上国で大きな実績を上げてきた。特にインドでは表彰も受け、世界からその知識と経験を乞われる存在にまでなっている。
海外に出て20年。阿部が、海外で仕事をする上で大切にしているのが、「日本を押しつけず、日本を捨てない」ことだ。日本の安全管理の手法や考え方を全て、途上国で適用しようとしても、現場はまったく動かなくなってしまう。文化や風習の壁を越えて、人々の意識を変えるには、日本のやり方にこだわらず、合わせるべき所は合わせることが必要だ。
しかし、現地の文化に合わせすぎては、本来の目的である現場を安全に変えることはかなわないと考える。
今回阿部は、インドネシアの地下鉄の工事現場で、地下にある食堂を見つけた。阿部は即座にこの地下の食堂を安全意識の向上の場として生かせないかと言い出した。インドネシア人は屋台の食堂などに集い、仲間たちと時間を過ごすことが多いからだ。日本のやり方を押しつけず相手に合わせ、その一方で本来の目的である安全意識の向上をどう計るか。そのバランスの妙こそが、阿部のプロたるゆえんなのだ。

写真阿部が向き合うのは、文化も風習も違う異国の作業員たち
写真阿部は、地下にあったこの食堂を、安全意識の向上に生かしたいと提案した


無謀の積み重ねが、道になる

世界の土木現場をまたにかけて活躍する阿部。だが、土木の世界を目指した大学時代から、阿部の前にはいくつもの壁が立ちふさがってきた。女性がトンネル建設現場に入ると崩れるという言い伝え、女性だからと雇ってくれない建設会社、海外に留学したものの挙げ句の果てに受けたリストラ・・・だが阿部は、先の見通せない状況が幾重にも続く中でも、絶対にあきらめず、走り続けてきた。そして8年前、業界で最も難しい国の1つと言われるインドに赴き、そこで大きな実績を上げる。今回の取材中阿部は、これまでの歩みを回想しながら次のように述べている。
「無謀以外の何ものでもない。それでもそこに光が少しでもあるなら、と突き進んだだけで。無謀もね歩くと、道になるんです」

写真自らの姿勢を猪突猛進とも称す阿部。決して後ろを振り返らない


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

あきらめたらすべてが終わってしまう。あきらめないことが前に進んでいくことだと私は思っています。あきらめないことがプロを育てていくんじゃないかなと思いますけど。

土木エンジニア 阿部玲子


プロフェッショナルのこだわり

道化になりきり、笑いを生む

文化も風習も違う人々とともに、阿部が働き初めておよそ20年。異国の人々とコミュニケーションを取る上で阿部がとても大切にしているのが、「笑い」だ。特に自らをネタにした、自虐的なネタで人を笑わせることが、1つのポイントだと考えている。阿部はその理由として次のように語っている。
「自分のことをネタにして笑わせるのが、一番誰も傷つけないっていう。人の事だと、1つ間違うと大変な事になるときもあるので。国が違うと習慣も違うし考え方も違うときがあるので、大抵自虐ネタは多いですね」

写真阿部の周りは、常に笑顔と笑い声があふれている