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第276回 2015年9月7日放送

若き化石ハンター 太古の謎に挑む 恐竜学者・小林快次(よしつぐ)



「必ずある」と信じる

太古の昔、地球上を支配していた恐竜。いまだ多くの謎に包まれているその研究で、新発見を次々と成し遂げているのが恐竜学者・小林快次(43)。これまで7種類もの新種を発表するなどワールドクラスの実績を誇る小林は、世界の名だたる研究者から“ファルコンズ・アイ”=「ハヤブサの目」を持つ男と称される。狩りの名手・ハヤブサのように、貴重な化石を見つける卓越した能力を持った化石ハンターだからだ。
限られた時間の中で、いかに新発見を生み出せるかが問われる厳しい世界。小林は調査を進めるとき、「必ずある」と信じる。
「恐竜の調査って、『無い』と思い始めたらきりがない。僕は『必ずある』という前提で探す。見つからないと普通は諦めちゃうんですけど、僕は残された面積が減るということは、見つかる可能性がどんどん高くなっていると考える。だから無いことを逆に喜びにしているんです。もう一歩先に行くと、次は見つかる。」

写真“ファルコンズ・アイ”と呼ばれる鋭い目
写真急斜面もくまなく探し回る
写真ティラノサウルスの仲間の歯の化石を発見


1ミリずつ進めば、大発見が生まれる

小林は今、世界が注目する大仕事に挑んでいる。北海道で2年がかりで発掘した恐竜化石の調査だ。これだけよい状態の全身の化石は、日本ではほとんど例が無い大発見だった。
発掘の次に小林が行っているのが、これまで世界中で見つかっている化石と比較し、この恐竜が新種かどうかを見極めるための分析だ。そこで向かったのは、カナダにある世界最大級の恐竜専門博物館。写真やデータだけでは分からない重さや質感などの違いまで1つ1つ確かめ、より正確な研究結果を導き出すためだ。細かな比較を、全身の数百個もの化石でやらなければならないという気の遠くなる作業。しかし、小林は決して諦めない。
「1歩でも半歩でも、1センチでも1ミリでもいいから、ちょっと前進するのが鍵。どんなに視界が悪くても、ほんの1ミリぐらいは動けるはずなんですよね。とにかくちょっとずつ前進することさえ心がけていれば、どっかの山の上には登ることができると思っている。」

写真北海道での恐竜発見は歴史的な快挙
写真分析のため世界中の博物館に足を運ぶ
写真分析完了まで5年以上を要する長い道のり


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分の未熟さを常に感じて、認めることができる人。常に自分に満足じゃない、自分が未完成である、未熟であるっていうことをちゃんと認識している人。

恐竜学者 小林快次(よしつぐ)


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

いくつもの定説を覆してきた“ファルコンズ・アイ”小林の技は、発掘だけではなく、科学的な分析にもある。たとえば肉食恐竜の代表格・ティラノサウルス。世間のイメージとは裏腹に、かつて研究者の間では、狩りが不得意で、死体をあさって食べていたという説が有力だった。そんな中、小林はCTスキャンを使って、頭の化石を分析。ティラノサウルスの脳の中にある、嗅覚をつかさどる嗅球(きゅうきゅう)という部分が、ほかの恐竜に比べて大きく発達していることを解明した。そして、優れた嗅覚を生かして高度な狩りを行っていたという新たな説を打ち立てた。恐竜研究は、ギャンブル性の高い「発掘」と地道な「分析」、その両方の力が求められる学問だ。

写真CTスキャンを使ってティラノサウルスの頭蓋骨を分析
写真優れた嗅覚を持つハンター、ティラノサウルス