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これまでの放送

第262回 2015年5月4日放送

最強の地平、その先へ 横綱・白鵬



型を持ち、型にこだわらない

平成27年の初場所で、歴代最多優勝記録を塗り替えた白鵬。横綱になってからの勝率は実に9割。その圧倒的な強さの秘密はどこにあるのだろうか。白鵬が得意とする型は左上手をとる「右四つ」。そこからの寄りや、上手投げが盤石の流れだ。だが白鵬の真の強さは得意の体勢になれなかったときの変幻自在ぶりにある。相手の出方にあわせて多彩な技を瞬時に繰り出す。それを可能にするのはあらゆる状況を想定した稽古だ。対戦相手のひとりひとりをビデオで研究し、取組のイメージを練り上げる。その上で、若手を相手に、あらゆる取り口で繰り返し稽古を行っていく。そうした地道な稽古の積み重ねの先にこそ勝利があると白鵬は確信している。「型を持って、型にこだわらない。勝負師というのはあらゆる手を使って勝ちに行くというのが大事ですよね。もし、ひとつでも足りなければ優勝を手にすることはできないと思うね。」

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最大の敵は、自分

白鵬が常に心がけているのは自分の弱い「心」といかに向き合うかだ。常に揺れ動く自らの感情をコントロールし、勝利を掴み続けてきた。そこには熾烈な争いを戦い抜いてきた者だからこそたどり着いた流儀がある。白鵬は場所前にあえて身体を作り上げない。あえて不安を残すことで自らに緊張を課す。白鵬は言う「稽古であんまり自信がついてもよくないんですね、空回りするから。だから、あえて調子が悪い状態でいく。だいたい最高の調子の6、7割くらいの時がものすごくいいものを達成するんです。」
そして、取組の直前も白鵬は自分の「心」と徹底して向き合い、整える。対戦相手を見下ろすような気持ちに自らを誘う。そうすることで、気負う気持ちが抑えられ、周囲を冷静に見渡すことができるようになり、いい結果に繋がるという。そんな白鵬が常に掲げる最大の敵がいる。「最終的には自分自身ですよ。一番のライバル、敵というのは。自分の弱点、自分の弱いところがあるからこそ頑張れるし強くなりたいし、そこに打ち勝って精進していくんでしょうね。」

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人生は、敵と闘うより難しい

横綱は勝って当たり前。負けが続けばその先にあるのは「引退」だけだ。白鵬はずっとその重圧と闘い続け、幾多の壁にぶつかりながらもそれを乗り越えてきた。支えとなっていたのは元横綱大鵬関・納谷幸喜さんの「横綱は宿命」という言葉だった。白鵬は昭和の大横綱として角界を背負ってきた納谷さんの背中をずっと追い続けてきた。そして、ついに納谷さんの32回の記録を超え、33回の優勝を果たした。だが、記録を達成した後の平成27年春場所。白鵬はこれまでにない新たな壁にぶつかることになった。それは記録を更新したことによる、巨大な喪失感だった。「心にポカーンと穴が空いたような感じだね。一体これから何の為に戦っていったらいいのか・・・。」
白鵬は初めて「戦いに燃えない自分」と向き合い戸惑っていた。なぜ自分は戦うのか?相撲とは、人生とはなにか、白鵬は連日満員御礼となった会場でひとり考え続けていた。「強い人っていないんだよ、分からないけど。ことわざがあるね。“人生って戦う敵より大変だ”というね。生きていくっていうのは戦う敵よりも大変だという意味なんでしょうね。目に見えないから。」
そして34回の優勝記録がかかった千秋楽。相手は横綱 日馬富士。白鵬は2分3秒の大相撲を制した。
優勝後、白鵬の表情は穏やかだった。そして静かに語った。「特別な場所なんですねあそこは。人を成長させたり、人を試したり、人を笑わせる、悲しませる、色んなものがあるんだよね。だから自分との戦いでありながら、成長するところなんですね。」
白鵬にとって、日本に来てからの15年は、そのまま土俵と共にあった歳月だ。白鵬が語った言葉には、自分を鍛え成長させ続けてくれた土俵に対しての、改めての感謝と畏敬の念が込められていた。

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プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

型をもって、型にこだわらない人間がプロフェッショナルだと思います。

横綱 白鵬


プロフェッショナルの美学

30歳を迎え、力士としてはベテランの域に入った白鵬。3年前からは専属のトレーナーをつけて稽古や取組後は毎回欠かさずに身体のケアを行っている。そうした努力の結果、横綱になってからの8年間で1日も休場していない。白鵬は土俵に上がる際にできうる限りサポーターやテーピングをしないことにずっとこだわり続けてきた。そこに白鵬のプロフェッショナルとしての大切な美学がある。「プロである限りは、きれいな身体で土俵に上がりたいんです。毎日、同じ人が15日間来るわけではないからね。その日、1日の為に何時間もかけて来る人もいるわけですから。そういう人たちの為にも身体のケアをする為だったら何でもするっていうね。それがプロの意識であり、お客様に対する感謝であり、常識であると思いますね。」

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