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第261回 2015年4月20日放送

鉄曲げひとすじ、巨船を造る 撓鉄(ぎょうてつ)職人・葛原幸一(くずはらこういち)



“礎”としての誇り

戦後、日本を代表する産業として発展し、世界最高峰と言われてきた造船業。その中で当代一と言われる匠(たくみ)が、葛原幸一(69)だ。半世紀日本の輸送を支え、300隻ものタンカーを手がけてきた。「ものづくり日本大賞」や「現代の名工」に輝き、海外の造船所では「キング」と称される凄腕だ。
職人・葛原の仕事、それは美しい流線型の「船形」を生み出すこと。船は数百枚もの鋼板が繋がって出来ているが、1枚1枚形が異なり、それぞれがあまりに複雑な形状のため、機械では造ることが難しい。スピードや燃費、耐久性といった性能を決める「船形」、造船における要を担う仕事だ。
駆使するのは、独特な職人技。ガスバーナーで鋼板を焼いて膨張させ、水で冷やして曲げていく「撓鉄(ぎょうてつ)」という技術だ。葛原は、どこをどのぐらい焼けばどう曲がるかを経験から知り尽くし、最短で理想の形へと近づけていく。その精緻な出来はまさに超人的。誤差をわずか2ミリ以内におさえ、組み立てた時にはほとんど隙間がない。5ミリ程度の誤差なら十分と言われる中、葛原はあえて厳しいハードルを貫く。船形の加工は、造船の工程の中でいわばスタートライン。自分の仕事の出来が、その後すべての工程の仕事を左右する。1,000人もの人が2年近くかけて行う巨船造りの「礎」としての誇りを胸に、葛原は自らの仕事に一切の妥協を許さない。

写真「炎」と「水」だけで、鋼鉄を自在にねじ曲げる“撓鉄”という技
写真葛原が目指すのは、誤差2ミリ以内だ。


悩み抜け、考え抜け

およそ50年にわたって、タンカーなどあらゆる巨船を手がけてきた百戦錬磨の葛原。だが、仕事に向き合う時には今なお不安がつきまとうという。船は毎回オーダーメイドのため、受注に応じて切り出される鋼板の大きさや厚み、形が変わる。ひとつとして同じものはない上に、同じ焼き方をしても全く同じには曲がらないからだ。教科書も手順も決まっていない「撓鉄」という仕事。葛原は常に緊張感を持って、真剣勝負で挑み続ける。
「“これはこうしなきゃいけない”という正解がないんです。正解は自分で考えて見つけ出すもの。それは50年やっても慣れないし難しい。でも、だからこそ面白い。」と葛原は語る。道を究めて半世紀。70歳を前にして現役を貫く葛原は、今も自らの力で考え抜くことをやめない。

写真「一枚として同じ鋼鉄はない。正解は自分で見つけ出す。」
写真100時間を超えることもある、撓鉄の仕事。どこまでも考え抜く。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

精度のこだわり、自分流のこだわりを持って、良い製品を送り出す。さらに上を目指して、日々、進歩あるのみです。

撓鉄(ぎょうてつ)職人 葛原幸一(くずはらこういち)