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これまでの放送

第259回 2015年4月6日放送

「雪と闘うプロ」スペシャル



当たり前のことを 当たり前にやるだけさ

北海道札幌市の除雪車運転士・田口純一郎(62)。地元の建設会社に勤める田口は、夏場は土木工事、冬場は除雪という生活を30年にわたって送ってきた。
札幌の雪を知り尽くす田口が乗り込むのは、雪を削り取るための鉄の爪と刃を持つ「グレーダー」という重機。田口は10本ものレバーを自在に操り、厚さ40センチの氷と化した“圧雪”に立ち向かう。
札幌市が掲げる目標値・厚さ10センチまで削っても、仕事を終わらせない。路面ギリギリまで雪を削り取っていく。人一倍仕事を突き詰める田口は、そこに理由などないと言う。「当たり前のことを、当たり前にやるだけさ。自分がどこまでキレイにできるか、プライド持ってやってるだけだ」。40センチの雪に覆われていた道を舗装が見えるまでに仕上げても「お礼を言われることは、あんまりないね。やって当たり前だからさ。そう思って、みんな一生懸命やってんだわ。ははは!」と、事も無げに言い放つ。愚直にみずからの仕事を全うし、さりげなく縁の下から人々の暮らしを支えるのが、田口の流儀だ。

写真いつも陽気な田口。複雑な運転もひょうひょうとこなす。
写真グレーターを手足のように操り、路面スレスレまで雪をかく。


淡々と、集中する

北海道の玄関口・新千歳空港。雪の季節は、一日400便の離着陸と並行して、滑走路の除雪作業が進められるため、「日本一忙しい空港」とも評される。そんな冬の千歳を30年にわたって守ってきたのが、百戦錬磨の航空管制官・大橋明広(52)だ。千歳に本拠を置く航空自衛隊に所属し、安全かつ効率的な飛行機の誘導に日々尽力してきた。
取材班は、地上70メートルの管制塔で行われた、吹雪の中での管制業務に密着。雪で真っ白になる視界、刻一刻変わっていく路面状況、そして思わぬアクシデントに見舞われながらも、動じることなく淡々と離着陸を遂行する大橋の姿を記録した。30年かけて鍛錬を積んできた大橋は、みずからの揺るぎない姿勢をこう語る。「絶えず、淡々と。先のことを予測して『もっとできることはないのか』と真摯(しんし)に考え続ける。そのためには、常にゆとりを持っていなければなりません。何があっても淡々と対処していくために、80%の力で仕事をし続けることを大切にしています」。

写真新千歳一のベテラン管制官・大橋。いかなるときも冷静沈着に指示を出す。
写真4人1組で行う管制業務。そのリーダーを務める大橋は、視界不良でも決して動じない。


雪に、刃向かわない

日本屈指の豪雪地帯・新潟県十日町市。町中でも積雪が2メートルを超える雪国で、日夜問わず交通の大動脈を守り続けるのは、小野塚吉郎(64)。新潟屈指とされる除雪隊の一員として、最も場数を踏んできた手練れだ。相棒は、「ロータリー車」。回転式の巨大な羽根で雪をかき込み、長い筒を通して雪を道路の外へと吹き飛ばしていく。
大雪警報が発令中の深夜2時半、小野塚は国道の除雪に緊急出動した。辺りは、漆黒の闇。しかし、一帯の地形が頭にたたき込まれている小野塚は、雪崩を誘発しかねない場所や民家を避けて、雪を積んでもいい場所を瞬時に判断していく。
長年除雪に取り組んできた小野塚の流儀は「雪に、刃向かわない」ことだ。「雪国に生まれた人にとって、雪は友達みたいなものです。邪魔だから早くどけてやろうと思うと事故の元になる。雪はしゃべらないけど、『私は硬いよ』『私は軽い雪だ』と教えてくれる。やさしくいけば、ずっとキレイになる」と語る。
除雪歴30年。小野塚は、いついかなる呼び出しを受けても、イヤな顔一つせず現場に向かってきた。「通行止めになるようなところを安全に通れるようにする。除雪は、いい仕事でやり甲斐がある」。この誇りが、小野塚を支え続けている。

写真除雪歴30年の小野塚。作業を休んだことも遅れたことも一度もない。
写真暗闇の中でも、ロータリー車でよどみなく雪を吹き飛ばす。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分の能力と機械の能力を合わせて、最大限に除雪できるように心がけています。雪が多いとちょっと無理するんだけど、最大限の能力を引き出すのがプロとしての仕事だと思います。(小野塚吉郎)いかなることも対処できるように先に判断しておく。不測の事態にならないように、そういう判断をしていた上で、ゆとりをもって行動ができる。そこに達したときに「あ、こいつもプロだな」と思えるようになります。(大橋明広)当たり前のことを当たり前にやるっていうことだね。それしかない。(田口純一郎)