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第258回 2015年3月16日放送

恐れの先に、希望がある 小児外科医・山髙篤行(やまたか あつゆき)



ゆっくり、はやく

小さな命を救う”最後の砦(とりで)”と呼ばれる山髙は、日々特別なプレッシャーと向き合っている。
山髙が専門とするのは、生まれつき臓器に異常を抱える赤ちゃんや、難病を抱える子どもたちの手術。新生児の臓器は大人の10分の1ほどしかなく、さらに、体温や心拍も変化しやすく、手術に耐える体力は大人よりも少ない。手術は困難を極め、わずかなミスでも命が危険にさらされる。山髙はその現場に30年向き合い続け、ほかの病院で「治療ができない」と言われた子どもなど、これまで1万人以上の命を救ってきた。その手術への情熱は、めっぽう強い。「気合入れろ!」「絶対ここを動かすな!」と周りの医師にげきを飛ばし、一切の妥協や失敗を許さない。その目指すところは、至ってシンプル。最も安全で、確実な手術を行いたい、という思いだ。そんな修羅場でこそつかんだ、流儀がある。
「僕は手術は急がないの、絶対に。絶対失敗したくないから。だって一生残るんだよ。まだ何十年ていう人生が待っているわけだし。ゆっくりはやくやれって言ってさ。手とか機械の動きはゆっくりなんだけど、やってることはむだじゃないから早く終わるんだよ」

写真山髙の細やかでムダのない手技は、群を抜く
写真極限の繊細さが求められる子どもの手術


常に、臆病であれ

小児外科が対象とする疾患は、心臓と脳、目以外のすべての臓器に及ぶ。その数は200種類以上にも及び、その疾患を複数同時に抱える子どもも少なくない。一人一人で状況は全く異なり、それぞれに合った特別な手術が毎回求められる。山髙は難しい手術を控えると、必ず一人部屋に籠もる。そこで行うのは、イメージトレーニングだ。どこからメスを入れ、どの順番で処置を進め、その場合にどんなことが起こりうるのかを、紙に書き出していく。すべてのリスクを洗い出すまで、手術の準備をやめることはない。「手術をキメられるか、キメられないかっていういちばん大きな要因は、手術の前の準備。9割が手術前で決まっていて、手術は変な話、手術する前に終わっているってこと」。
山髙が準備にこだわるのには、もう一つ大きな要因がある。幼少期からの「気が小さい」性格だ。子どもの頃はその性格がたまらなく嫌だったが、小児外科医になるとその「石橋をたたいて渡る」性格こそが、最大の武器になることに気づく。「気が小さいっていうか、おびえているっていうか。だから大きい手術、難しい手術があると怖いんです。だけど怖いから、一生懸命勉強する。すると、最初は治せるのかっていう不安が、だんだんとできるなっていう自信に変わってくるんです」

写真四六時中、徹底的に準備を重ねる


全身全霊で挑まなければ、限界は分からない

山髙は小児外科の中で、新しい地平を開拓し続けてきた。中でも、傷痕や痛みが軽く、術後の回復も早い低侵襲の内視鏡手術の第一人者だ。山髙は慎重に検討を重ね、己の持つ技術の範囲の中で内視鏡を用い、日本初の胆道閉鎖症の手術など次々と成功させてきた。
さらに、山髙の元にはほかの病院で「治療ができない」と言われた子どもたちもやってくる。山高はそうした子どもたちでも、治す方法は本当にないのか、徹底的に調べ尽くし、根治の道を探る。山髙を突き動かすのは、「子どもの未来に責任を持つ」という医師としての覚悟だ。自分で限界を決めず、全身全霊で子どもとその家族に寄り添っていく。
「限界?誰だってありますよ。絶対あると思う。でも、だんだんと準備していくうちに、その限界が低くなっていくんだよね。そうやって近づいていくとその限界が限界じゃなくなる。限界は超えていくものだと思いますよ」

写真山髙は、子どもの内視鏡手術の第一人者


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

妥協を許さない準備、反省をする人。そして、仕事を完璧にキメないと自分を許せない人、だと思います。

小児外科医 山髙篤行(やまたか あつゆき)


プロフェッショナルのこだわり

「不可能を、可能にしろ」

山髙の趣味は、名言集めだ。「栄光に近道なし」「部下の責任=すべて私の責任」など手帳にはいろんなところで見つけた名言が、書きためられている。そんな中、最も大切にする言葉の一つが、先代の教授であり、ラグビー部時代からの恩師でもある、宮野武さんからもらったものだ。「不可能を、可能にしろ」。若かりし頃、難病を抱える子どもを目の前にし、救うことはできないと諦めかけたときに、かけられた言葉だ。限界まで考え尽くしていたか。その前に、逃げようとしていたのではないか。山髙はそんな自分を反省し、準備に準備を重ね、その難病の子どもを救う突破口を見つけ出すことができた。今の山髙の医師としての根本になっている言葉だ。

写真趣味は名言集め「栄光に近道はなし」
写真ラグビー部の監督を務めていた宮野さんと山髙