スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第256回 2015年2月16日放送

もてなしの心、どこまでも コンシェルジュ・阿部佳



ようこそ、ニッポンへ

去年、日本を訪れた外国人観光客は、過去最高の1,341万人。2020年東京オリンピックに向けて、今後ますますその数は増えると見込まれる。そんな中、日本の窓口となって外国人をもてなすのが、ホテルのコンシェルジュだ。東京・六本木の超高級ホテルには、世界に認められるすご腕コンシェルジュがいる。阿部佳(55)。一流コンシェルジュのみ入会が許される世界組織「レ・クレドール」で、現役にして名誉会員に認定されている、ただ1人の日本人。その接客は、世界からの客をとりこにしている。

写真「富士山に登りたい」という客に、別の形で満足を提供した


言葉の向こうの、“心”を読む

コンシェルジュデスクに寄せられる依頼は、1日300件以上。「花火が見えるすし屋を紹介してほしい」「サムライがいる場所に行きたい」「パスポートを落とした」など、想定外の依頼も多い。客に向き合うとき、阿部が大切にするのは、「言葉の向こうの“心”を読む」ことだ。
たとえば、客から「富士山に登りたい」と言われたとき。すぐに富士山へのツアーを調べたが、すでに予約はいっぱいだった。しかしこんなときでも阿部はあきらめない。「富士山に登りたい」という言葉の奥に、彼らはどんな旅を望んでいるのか? 客の心の内を徹底的に読み解いていく。阿部は言う、「コンシェルジュの仕事の8割9割は、どれだけ相手に近づけるかということ。考えていること、イメージしていることが「これだ!」っと合ったときに、これをして差し上げればこの方は喜んでくださる、ということが分かる。それがだいご味」。客の真意を深く丁寧に読み取るからこそ、阿部の代案は、客を期待以上の満足へと導く。上記の客には、箱根での別プランを提示、客は足取り軽く出かけていった。

写真時にはホテルを出てまで客を見送りに出る


“攻め”のおもてなし

12月。ホテルの稼働率は限りなく100%に近づく。多忙を極める中で、阿部は6人の部下にハッパをかけていた。みな接客のスピードや技術は高い、だが無難な対応になりすぎていないか?守りに入ってはダメだ、もっと前のめりに!そう阿部は語りかけた。たとえば、歌舞伎のチケットの手配。単に席が取れればそれでよいのか?ふだんはとれない席が取れたことを伝え、客をもっと楽しませることができたのではないか?たとえばおすすめのレストランを聞いてきた客。もっと的確な提案は、本当になかったのか。阿部が求めるのは、「攻めのもてなし」。“やるべきこと”だけではなく、“やった方がいいことは全部”やる。そうして攻めの姿勢で向き合ってこそ、接客はプロの仕事になると阿部は考える。

写真多忙の師走に総力戦で挑んだ、阿部以下コンシェルジュチーム


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

1つのことに関して、昨日より今日、今日より明日、もっと前に進もう、もっと先を目指そうという努力をいつも自然に楽しんでいる人

コンシェルジュ 阿部佳


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

人の心を巧みに読み解くコンシェルジュの仕事。その力の源のひとつになっているのが、自宅の棚に5,000冊以上積まれた「本」だ。阿部は活字中毒。電車で本を読み終わってしまうと、パニックに陥るほど。特に好きなのが、海外ミステリーのハードボイルドもの。ウィットに富んだ会話に潜む、人の心の動きにひかれるという。その推理力は、仕事の現場でも生かされている。例えば、客が東京のおすすめスポットを聞いてきたとき。阿部はまず、「今日はどんなところへ行きたいか?」など、イエス・ノーで応えられないアバウトな質問を投げかけ、相手に多くを語らせる。質問は多くて2回までが鉄則だ。さらに、相手の表情の微妙な変化を徹底的に観察し、言葉に隠された真意をつかみ取る。年齢や服装、同伴者の有無などを考慮し、少ない手がかりで極めて短時間のうちに相手の目的を見極める。それが、阿部のコンシェルジュとしての技だ。

写真客の心を巧みに読み解く阿部