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第248回 2014年12月8日放送

崖っぷちこそ、成長の場所 マンガ編集者・佐渡島庸平



甘えが生じる環境では、勝てない

出版不況の中、ヒットを連発し、業界にその名を轟かすマンガ編集者・佐渡島庸平(35)。2年前、大手出版社を退社。漫画家と直接契約して創作をサポートする「作家エージェント」という新たなビジネスに挑んでいる。給料がもらえる出版社を辞め、作品が売れなければ収入のないシビアな環境にあえて自分を追い込んだのは、会社から守られていては時代の変化についていけないと危機感を感じたからだ。インターネットやIT技術が発達し、人々のライフスタイルが激変する時代に、ヒットするのはどんな作品か。感性を研ぎ澄ますために、佐渡島は退路を断つ決断を下した。

写真いつも出勤は、誰よりも早い。「(ほかのベンチャービジネスの人に聞くと)人の倍の早さで、3倍の時間働くという。挑戦している人が少ないビジネスだから、とにかくやるしかない。」
写真働く仲間は皆、佐渡島と同世代だ。


“地道”を超える魔法などない

マンガ編集者の基本的な仕事は、漫画家に資料やアイデアを提供し、創作を後押しすること。だが、佐渡島の真骨頂は、生み出された作品を売り込むためにあらゆる手を駆使するところにある。マンガに音声をつけた動画を利用したり、口コミで評判を広げるために単行本を美容室400軒に配ったり。通常は営業担当が担う書店回りも、自分で直接行ってPRに奔走する。大がかりな仕掛けではない。地道にさまざまな方策を試していくのは、それ以上の魔法はないと考えているからだ。「魔法の一手はないんだと思って、みんなが面倒だと思う作業を1個1個丁寧にやっていく。それがヒットにつながるとイメージできれば、楽しみながらできる」。ヒットを目指す上での佐渡島の信念だ。

写真漫画家直筆のサインや作品の関連DVDなどをもって、札幌の書店を訪問
写真担当するマンガの認知度を上げるためなら、金融セミナーでの講演までこなす


信じ抜く覚悟

佐渡島は、「作品はあくまでも作家のもの」という立ち位置を貫く。だから、中途半端に横から口を出すことは避けようと決めている。作家が迷っていると聞いても、安易に電話をかけたりもしない。多くの編集者が作家と話し込むのは、「自分の不安を和らげるためであることが多い」と佐渡島は言う。「でも僕は、この漫画家と一緒に仕事すると決めるとき、信じる覚悟ができてから頼んでいるから。」タッグを組んだ漫画家を信じて、創作に集中してもらえる環境を作ることを最も大切にしている。

写真漫画家が悩んでいるとき、むやみに自分の意見を口にすることは決してしない。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

「無知の知」です。自分にとって知らないことがたくさんあるっていう感覚の方が大きいのでプロフェッショナルだと自分を感じられないような人間こそが逆説的にプロフェッショナルなんじゃないかなと考えてます。

マンガ編集者 佐渡島庸平


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

誰かの心をつかむ作品を1つでも多く、世に

佐渡島は、父親の仕事の関係で中学時代を南アフリカで過ごした。人種隔離政策の撤廃を掲げたマンデラの大統領選挙のとき、「ピースソング」と呼ばれた何気ない曲が人々の団結を深めている光景に、佐渡島は強く心を打たれた。素朴で何気ないものが、誰かの心に力を与える事実。「役に立つものより、役に立たないもののほうが誰かの人生を変えることがある」ということに気づいたことが、編集者という仕事に就いた原点だという。
佐渡島は大手出版社から独立した今、無名の新人や雑誌にまだ連載を持てない漫画家の作品を、1つでも多く世に送り出すことに力を注いでいる。誰かの心に響く作品を1つでも多く世に出したい、そう願うからだ。

写真金融会社と組み、漫画家を応援する投資ファンドも立ち上げた。
写真雑誌に掲載することができないでいた漫画を、インターネットの力を使って世に送り出した。