出版不況の中、ヒットを連発し、業界にその名を轟かすマンガ編集者・佐渡島庸平(35)。2年前、大手出版社を退社。漫画家と直接契約して創作をサポートする「作家エージェント」という新たなビジネスに挑んでいる。給料がもらえる出版社を辞め、作品が売れなければ収入のないシビアな環境にあえて自分を追い込んだのは、会社から守られていては時代の変化についていけないと危機感を感じたからだ。インターネットやIT技術が発達し、人々のライフスタイルが激変する時代に、ヒットするのはどんな作品か。感性を研ぎ澄ますために、佐渡島は退路を断つ決断を下した。
いつも出勤は、誰よりも早い。「(ほかのベンチャービジネスの人に聞くと)人の倍の早さで、3倍の時間働くという。挑戦している人が少ないビジネスだから、とにかくやるしかない。」
働く仲間は皆、佐渡島と同世代だ。
マンガ編集者の基本的な仕事は、漫画家に資料やアイデアを提供し、創作を後押しすること。だが、佐渡島の真骨頂は、生み出された作品を売り込むためにあらゆる手を駆使するところにある。マンガに音声をつけた動画を利用したり、口コミで評判を広げるために単行本を美容室400軒に配ったり。通常は営業担当が担う書店回りも、自分で直接行ってPRに奔走する。大がかりな仕掛けではない。地道にさまざまな方策を試していくのは、それ以上の魔法はないと考えているからだ。「魔法の一手はないんだと思って、みんなが面倒だと思う作業を1個1個丁寧にやっていく。それがヒットにつながるとイメージできれば、楽しみながらできる」。ヒットを目指す上での佐渡島の信念だ。
漫画家直筆のサインや作品の関連DVDなどをもって、札幌の書店を訪問
担当するマンガの認知度を上げるためなら、金融セミナーでの講演までこなす
佐渡島は、「作品はあくまでも作家のもの」という立ち位置を貫く。だから、中途半端に横から口を出すことは避けようと決めている。作家が迷っていると聞いても、安易に電話をかけたりもしない。多くの編集者が作家と話し込むのは、「自分の不安を和らげるためであることが多い」と佐渡島は言う。「でも僕は、この漫画家と一緒に仕事すると決めるとき、信じる覚悟ができてから頼んでいるから。」タッグを組んだ漫画家を信じて、創作に集中してもらえる環境を作ることを最も大切にしている。
漫画家が悩んでいるとき、むやみに自分の意見を口にすることは決してしない。
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