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これまでの放送

第247回 2014年12月1日放送

大事なものは、足元にある ガーデンデザイナー・ポール・スミザー



居場所があれば 生きていける

イギリス人のガーデンデザイナー、ポール・スミザー(44)。来日25年、見向きもされなかった日本の草木に光を当て、この国のガーデニングに旋風を巻き起こす。スミザーの作る庭は、四季折々に草木がその命を躍動させる。春の芽吹き、夏の新緑、秋の紅葉。農薬や化学肥料を一切使わず、植物たちがみずからの力で季節を織り成すその姿は「自然より自然らしい理想の庭」と評される。
スミザーの庭作りに対する哲学は極めてシンプルだ。それは植物に合わせた居場所を用意すること。スミザーは庭の隅々にまで目を凝らして、慎重に植える場所を決める。例えば、1日中陽が当たらない日陰と時間によっては木の間からまばらに陽が差し込む木陰では大きく違う。一見同じに見える庭の中の複雑な環境の違いを読み解き、そこに合った植物を植えることが何より大切と考える。
「植物の本音を聞きたいんだよね。まあそうね、どっちかっていったら日当たりのいいところ、とかね。植物と話ができたら、本当のこと言ったらあなたはどういうところを好む?ってことは聞くと思う。生き物はみんな一緒だと思うよ。別に植物でも人間でも。場所さえあっていれば生きることができるよね。住むことができるよね。」

写真草木の命が躍動する庭
写真現場主義のスミザーは動きやすいという理由でいつも登山着
写真スミザーにより居場所を与えられた植物


大事なものは、足元にある

イギリスのバークシャー州に生まれたスミザーは、幼い頃から植物に興味を持ち、名門と名高い王立園芸協会で園芸の基礎を学んだ。そこで運命的な出会いをしたのが日本生まれの草木だった。変化に富んだ葉に印象的な色。一目でとりこになり19歳のとき来日した。
そんなスミザーには25年来、変わらず続けていることがある。それは身近な野山を歩くこと。日本は土地が南北に長く、四季がはっきりしているため、2,500種を超える固有種が自生。その豊かさは世界有数だ。スミザーは日本の野山を歩けば驚きと発見の連続だと語る。植生を観察調査し、庭造りに活かしている。
この夏舞い込んだ新たな依頼。“涙が出るほど美しい紅葉の庭”を作って欲しいというもの。スミザーは、紅葉の代名詞モミジに頼らずに色づく多年草を一面に配した庭を提案した。
「日本にいい植物が大量にある。本当に使い切れないほど。あなたのすぐ足元にこういうものもあるよっていう提案はしたいよね。」

写真スミザーが庭作りの手本とするのは身近な野山
写真頭の中のイメージをデザインに落とし込む
写真紅葉する多年草を足元に配し一面の秋を表現


壊すのも人間 守るのも人間

昨年、スミザーにはショックな出来事があった。自身の代表作とも言われる庭園が、開業10年にして、経営不振で閉園に追い込まれたのだ。スミザーは庭を住処としていた動植物が行き場を失ってしまったことを無念に思い、緑を守り維持していく知恵を模索していた。
日本は世界有数の豊かな緑に恵まれながらも、その価値に気づき目を向けようとする人はまだまだ少ない。スミザーは今秋、新たに手がける庭で、地元に自生する希少な植物を植え、募った地元市民とともに植え込みを行うというアイデアを打ち出した。
「もうちょっと自分の足元の自然を大事にしないと、世界の色んな国から見てもすごいなっていう種類豊富な自然がなくなったらどうする?って。ポールに聞かないとわかんないとかじゃ困る。私はずっと生きているわけでもないし。なるべく大勢の人に植物を好きになってもらわないと続かないと思うんだよね。」自然を大切にするひとりひとりの思いが、未来を育んでいくと信じている。

写真来日25年。日本の自然を見つめて続けて来た
写真この秋、市民とともに希少な植物を植えた庭


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

一生懸命やることは当たり前な話だと思うし、いい仕事をするのも当たり前の話だと思うよね。だから、新しいことをやってみるとか、挑戦してみるとか、その結果を人に伝えることがプロフェッショナルのやることだと思う。

ガーデンデザイナー ポール・スミザー


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

農薬や化学肥料を一切使わないスミザーの庭には鳥や虫、さまざまな生き物が訪れる。一般的な庭ではこうした生き物は葉を食い荒らす恐れもあるため、駆除することも多い。だが、スミザーはやってくる生き物は庭の大事な来客として迎え入れる。生き物が集う光景こそ、理想とする自然の姿に近いと考えるからだ。
スミザーの膨大な技術の試行錯誤に欠かせないのが、18年前自宅のそばに設けた実験場だ。水を張った湿地や日陰、砂利を敷き詰めた乾燥地など厳しい環境を再現し、300種類の植物の植生を調査。植物がどんな環境で生きていけるか観察を続けている。「とにかくここで実験してみれば、安心してほかの所で使えるって。そういう場所なんですよね。」

写真スミザーの庭はさまざまな生き物が集う楽園だ
写真実験場で試した植物の数は300種類を超える


放送されなかった流儀

草木の出すサインを見逃さない

スミザーは、植え込みした庭のメンテナンスを欠かさない。手がけた庭園に定期的に足を運んでは、草木の成長具合を観察し、手入れする。ロケで同行したこの日、ツリバナの幹から新芽が出ているのを見つけたスミザーは、すぐさま木の根が傷んでいることを察知した。木は根が傷んだとき、水を引っ張り上げる力がなくなり、下の方から新芽を出すことがある。大事なのは、こうした植物が出すサインにどれだけ早く気づいてあげられるか。「本人と話ができたら、今この場所がよくても3年4年後には、最近暗くなって思うようには咲かないって話になるかもしれない。私たちの仕事は問題になる前に気付いて動いてあげる。間に入って調整することが大事。」

写真幹から新芽が出ていたツリバナの木