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第240回 2014年10月6日放送

食べる楽しみが、希望を生み出す 訪問管理栄養士・中村育子



私は、招かれざる者

いま国が推進する在宅医療で深刻なのが食事の問題。糖尿病や腎臓病をはじめ自宅療養する場合、目が行き届く病院と異なり、食生活の自己管理が難しく再入院する患者が少なくない。
そんな現場で栄養指導を行い、1,000人にのぼる患者の食生活を劇的に改善させてきたのが、訪問管理栄養士の第一人者・中村育子だ。
患者と向き合うときに中村が心にとどめるのが【私は、招かれざる者】という考え方。
病状を改善させるためには、時に厳しい食事制限を患者に強いることがある。自分がそんな存在であることをまず認め、それから患者に寄り添うにはどうすればよいかを考え尽くす。
「最初から食事療法したいと思う人はいないですよね。その人をどう振り向かせるかっていうのが、これはやっぱりわれわれの力なんじゃないかと思いますね。その人がどういう価値観なのかをまず知って、そこから作戦を立てます」

写真病気のためとは言え、食事を単なる栄養補給ととらえてしまうと生きる喜びを失うことになると中村は考える。


食は、人生を映し出す

中村は患者を訪問すると、まず聞き取りから始める。
どのような食生活を送っているかはもちろん、誰が料理を作るのか、食材を買う店はどこか、さらに趣味や育った環境に至るまで、ありとあらゆることを聞き出す。
患者が食に対してどのような考え方を持っているのか、在宅患者だからこそさまざまな観点から捉える必要があると中村は考える。
「在宅の患者の場合はよいお洋服を着て、どこかにお出かけできるわけでもないし、やっぱり食事っていうのがいちばん楽しみになってくるので、食事が嫌になったりとか苦痛になったら、いったい何のために食事療法してるのか分からないので、生きがいになんとかつなげていければと思います」

写真患者に合わせて綿密なレシピを考案。ときにはみずから台所に立ち調理方法を教えることもある。


食べることは、幸せの源

もともと病院などの食事を手がける管理栄養士だった中村。患者の家を訪れるようになった出発点には、決して忘れることのできない悲しい出来事があった。
32歳のとき、70代の女性にお弁当を届けることになったが、訪れると女性は風呂場で息を引き取っていた。自宅での食生活に目が行き届いていれば体の異変に気づけたのではないか。病状に合わせて献立を立てられていれば、亡くなることはなかったのではないか。猛烈な後悔から、中村は患者の家を訪問すると決めた。
だが、前例のない訪問での栄養指導はなかなか受け入れてもらえず、転職すら考えるほど深い悩みにさいなまれた。そんなある日、出会ったのが脳梗塞の後遺症で飲み込む力が極端に落ちた男性だった。男性は胃から栄養を取る「胃ろう」に頼っていたが、もう1度口から食べたいとリハビリを懸命に行っていた。なんとか協力したいと、中村も安全に食べられる方法を模索し続けた。
1か月後、男性がペースト状にした大根を再び口から食べることができた。男性は涙を流し「おいしい」とつぶやいた。
「食べるということは人に底知れない力を与える」。このことを胸に刻み、中村は一人一人の患者と向き合うようになった。

写真ある孤独死が中村の人生を激変させた
写真食べるということが人に与える力を大切にする中村


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

どんなときでも自分に厳しく、自分を甘やかさず、そして厳しい状況にあっても周りに優しくできる、そんな人だと思います

訪問管理栄養士 中村育子


The Professional's Tools(プロフェッショナルの道具)

体重計

中村がいつも持ち歩くのが、栄養状態を把握する体重計。
デジタルではなくアナログにこだわる。
「デジタルの場合は乗るまでに時間がかかると消えるものがあるので、在宅の患者はそんなにスッと足をのせられる人も多くないので」

写真


食品サンプル

中村が患者の食習慣を聞き取るのに欠かせない食品サンプル。
野菜や肉、お菓子など30種類にも及ぶ。
それぞれが栄養学の単位である80キロカロリーを基準に作られている。
食の好みだけでなく、量を優先するのかなど、その人がどのような考え方を持っているのかまで聞き出すことができるという。

写真