森岡を“軍師”たらしめているのは、統計学に基づく際だった分析力だ。例えばユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、すでに頭打ちだと思われていた10月の集客にこそ最大のチャンスがあると見抜き、そこに予算を集中させることで、来場者数を倍増させた。普通のマーケターでは素通りするような数字にも、森岡は「ガンマ・ポアソン・リーセンシーモデル」などの統計理論やアンケート調査を組み合わせ、隠れた需要の芽を見つける。
「ものが売れるためには、なぜものが売れているのかっていうことを科学的に分析しないとダメで、数字にある裏側を読むんです。単に数字を“見る”のではダメで、意図を持って数字を“診る”。」
マーケティングに必要なのは、創造力やセンスではなく、データを積み重ね、分析していく粘り強さ。その日常は、サイエンティスト(科学者)に近いと森岡は言う。
出社するとすぐ、会社の経営状態を示す数百の数字に目を通す。
森岡さんの分析から企画されたエリア。
親子連れの来場者を倍増させた。
徹底的な分析に加え、森岡が大事にしているのが、誰よりも現場を歩き、自身の熱を現場の人たちに直に伝えることだ。会議、会議に追われる中でも、1日に1度はパークに出て、客の反応や新たなアトラクションの進展状況を見回る。改善点が見つかれば、その場ですぐに議論する。分析しつくし、緻密に戦略を練ったとしても、100%成功する企画はない。100回サイコロを振って99回勝てる勝負でも、最初の1回で負けが出てしまう可能性もある。
「どこまで行っても100%がない中で、残りの数%を埋めていくのは、やっぱり意思の力、情熱の力。数字に熱を込めるっていうことなんだと思います。」
右手に冷静な数字、左手に熱い意志、その両方があってこそマーケターだと考えている。
大きな身ぶり手ぶりで、思いを伝える。
日々、パークを回る森岡
森岡さん最大の挫折が、前の会社で担当した高級シャンプーの日本展開だった。チームリーダーの森岡さんは、売れない可能性が高いと分析しながら、上司の意向に従い、部下に「絶対に売れる」とげきを飛ばした。だが実際に販売が始まると、森岡さんの予想通り惨敗。森岡さんのチームは解散を命じられた。森岡さんは、失敗を知りながら、自分の考えを上司に主張できなかったことを恥じた。
そんな森岡さんの心につき刺さったのが、父、正さんが口にした「どんな立場になっても、厳しい方をとらなあかん」という言葉だった。正さんは自分の会社が倒産したとき、給料も出ないなか最後まで残り、債務整理や部下の就職の世話をした。内心「要領が悪い」と感じていた父の言葉が響いたという。
以降森岡さんは、迷ったときは、常に自身にとって厳しい選択をすると心に決めているという。
父、正さん