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これまでの放送

言葉のチカラSP Part3 2014年5月19日放送

運命を変えた8つの言葉



本物を作れ、そして一生涯、職人であれ

“裂き3年、串打ち3年、焼き一生”という、うなぎの世界。この道を70年にわたって追求し、いまなお研さんを続ける金本兼次郎には、みずからを支える「言葉」がある。
その言葉と出会ったのは、店を継いでまもなく、天然うなぎが激減し、養殖ものが出回っていた頃。金本は江戸時代からの伝統に従い天然ものにこだわるが失敗。しかたなく養殖ものも使っていた。
だが時折、これでいいのかという思いに駆られていた金本。その時出会ったのが、北海道の菓子職人・小田豊四郎さんに関するエピソードだった。以前、小田さんが店の名前を変えることになり悩んでいたとき。周りからある言葉をかけられたという。

「のれんにだけ頼っているのなら別だが、本物を作っているのなら心配ない」。

例え店の名前が変わろうとも、きちんとこだわりをもって作っているなら、きっと客は来てくれる。そう解釈した金本は、己の迷いを吹っ切った。養殖ものでも徹底的にこだわれば本当においしいものができる。そう信じ、道を極めてきた。
それから30年がたった頃。80歳を目前に、金本は再び悩んでいた。周囲が次々と引退していく中で、自分も引退を考えていたのだ。しかしそんなとき、再び小田豊四郎さんからある言葉をもらった。それは小田さんが亡くなったときに、生前語ったという言葉。

「生涯、菓子職人で終えて、よかったよ」。

小田さんは90歳で亡くなるまで、新たな菓子の追求をやめなかったという。その言葉に背中を押され、金本は決意した。自分も小田さんのように、生涯一職人として生きる。こうして86歳の今も研さんを重ねている金本。尊敬する先輩職人との出会いがくれた言葉を胸に抱き、うなぎと向き合っている。

写真うなぎ職人 金本兼次郎(86)


言いたいことがあるんだったら、ちゃんとやれ

温水洗浄便座などの「包装」の設計で、業界の注目を集める包装管理士・岡崎義和。段ボールに細かな切れ目を入れるだけで複雑な立体を組み上げる。結果、作業の手間は従来の5分の1。これまで実に数十億もの利益をもたらした。
今や「会社の宝」と呼ばれる岡崎だが、実はもともと、とんでもない不良社員。そんな岡崎を変えたのは、ある上司の言葉だった。
入社当時から負けん気が強く、ケンカに明け暮れていた岡崎。上司からは「面倒を見たくない」と煙たがられていた。そんなとき、唯一面倒を見てくれた上司・重松伸一さんが、岡崎にある言葉をかけた。

「言いたいことがあるんだったら、ちゃんとやれ」

とにかく上司の指示に反発し、やる前からできない言い訳をすぐ口に出す。それではいつまでも認めてもらえない。だからまずやってみて、結果を出してから言いなさい。
自分を唯一拾ってくれた上司の言葉。岡崎は少しずつ、自分の仕事を見つめ直した。しだいに岡崎の態度は変わり、社内でも成績優秀だと表彰されるまでになった。
だが28歳のとき、部署異動になった岡崎は愕然とした。新たな職場は、階段下の物置。誰もが軽んじていた「包装」の設計を命じられたのだ。いくら意見しても誰も聞いてくれなかった。
その時岡崎が思い出したのが、重松さんの言葉。岡崎はその言葉とおりに、がむしゃらに働いた。仕事が認められず、営業に回されることもあった。それでもあの「言葉」を胸に、決してくじけなかった。
それから15年後。ついに岡崎は「包装」のリーダーに抜てきされ、大幅なコストダウンを実現、業界をあっと言わせた。そして、会社の中で一際輝く存在となった。「言いたいことがあるんだったら、ちゃんとやれ。」岡崎のすべてを変えた言葉だ。

写真包装管理士・岡崎義和(59)


一心に、あなたらしく

先進国首脳が集うサミット、そして2020年東京オリンピック招致に至るまで、日本の外交を支えてきた通訳・長井鞠子。71歳のいまも全身全霊で仕事に突き進む姿勢には、ひとつの言葉が貫かれている。
それは、同じ通訳だった母・三枝子さんからの言葉。幼い頃から、三枝子さんの影響を受けて育った長井は、アメリカに留学して英語を学ぶと、通訳の道に進んだ。
持ち前の負けん気で、同時通訳の仕事にのめり込んでいった長井。どんな会議でも英単語帳を作っては徹底的に資料を読み込んだ。そして長井は、若干35歳でサミットの通訳を任されるまでになっていた。
しかし40代に入った頃、長井は人生の試練に直面した。長年連れ添った夫との離婚。さらに仕事で失態をおかし、その通訳の現場からは出入り禁止となってしまう。長井は、失意の日々を送り、一人になると涙がとまらなかった時期もあったという。
そんな時だった。誕生日に一通の手紙が送られてきた。差出人は、母の三枝子さん。そこには、幼い頃の負けん気の強い長井を、誰より知っている母ならではの言葉が記されていた。

「一心に突き進んでいる姿が、まさにあなたそのもの。」

「一心に、あなたらしく生きればいいのよ」という母のメッセージから、本当の自分らしさを取り戻した長井。そのあと迷いを吹っ切り、一心に仕事に突き進んでいった。

写真会議通訳者・長井鞠子(71)


気づきが、大切だよ

指や耳など、身体の一部を補う「義肢」。本物そっくりなだけでなく、依頼主の暮らしや事情に合わせた機能性を持つのが、義肢装具士・林伸太郎の生み出す義肢だ。
そんな林には、人生に根づいているひとつの言葉がある。それはもともと、妻の香苗さんからもらった言葉だ。
10代の頃、特に夢もなく過ごしていた林。高校にもあまり通わず、卒業しても定職には就かなかった。そんなとき、香苗さんとの交換日記に記されていた、ひとつの言葉に出会う。

「気づきが、大切だよ」

最初は、その意味が深くは理解できなかった。だが、ほかならぬ香苗さんからの言葉。林は折に触れ、「気づき」の意味を考えるようになった。
その言葉は、林が義肢装具士になったとき、より大きな意味を持つようになっていく。さまざまな事情を抱えてやってくる依頼主。その、決して言葉では言い表すことのできない細やかな気持ちに、どこまで気づけるか。それこそが、仕事を大きく左右するのだ。
指の血管までも描く技術。義肢とのつなぎ目をわからなくする技術。「気づき」とともに、みずからの仕事をつきつめていった林。いつしか、業界でも屈指と呼ばれる職人となっていた。林は言う。「気づきという言葉を意識すると、すべてが、そこスタートです」。

写真義肢装具士・林伸太郎(39)


プロが語る、「座右の銘」

脱皮できない蛇は、死ぬ

巨大市場・中国を席けんしている日本の小売りスーパー。その経営のかじ取りを行い、売り上げ1000億円をたたき出した、三枝富博。激動の中国社会の中で生き抜くための、座右の銘がある。
「お客さんは常に変わっている。つまり今よいことをよいからと言ってとどまったとしたら、いずれ衰退していく。脱皮できない蛇は、死ぬんだ。」

写真小売り経営 三枝富博(64)


スパイシー

ロボット研究のエキスパート、山海嘉之。そのロボットは、リハビリや、難病に苦しむ人々の新たな希望になると世界が注目する。だがその開発は、数万回の失敗の繰り返しだった。それでも山海は、その失敗や困難を「人生の調味料」と解釈し、「スパイシー」とみずからに言い聞かせることで乗り切ってきたという。それが、今の山海を支える座右の銘だ。

写真ロボット研究 山海嘉之(55)


お前、その程度で、好きと言うとったらあかんやろ

日本が世界に誇るサブカルチャー「フィギュア」。マニアもうなる精緻な出来で業界にその名を轟かす、宮脇修一。作りたいものしか作らないという常識破りの経営で躍進を続けてきた。その「好きなこと」を仕事にする上で、宮脇が大切にしている座右の銘がある。「その程度で好きと言うとったらあかんやろう。」自分が本当に好きなことだから、決してそこに甘えは作らない。部下だけでなく、自分自身にも常に問いかけ続け、本当に納得のいくものだけを生み出している。

写真模型会社社長 宮脇修一(56)