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これまでの放送

第229回 2014年4月21日放送

港のエース、ガンマンの絆 クレーン運転士・上圷(かみあくつ)茂



速くて一人前、やさしくて一流

横浜港の岸壁にそびえ立つガントリークレーン。全長127メートル、運転席は地上50メートルの高さにある。運転士“ガンマン”は、港湾の花形と言われ、貨物の積み降ろし作業の中核を担う存在だ。
上圷が1時間に積み降ろしするコンテナは、およそ50本。世界平均の1.5倍のスピードを誇る。
だが上圷は「数字を上げようと思って運転しない。クレーン操作は、競技ではない。」と言い切る。最も大切にしているのは“やさしい”運転をすること。コンテナを積む船の上では、多くの仲間が働いている。重さ40トンにもなるコンテナが着地するときの衝撃音は、乗用車が正面衝突したようだと形容される。また、巨大コンテナが降下してくると、太陽が遮られて目の前が真っ暗になり、恐怖心が湧き上がる。船内作業員たちは、至近距離で1日に何百本というコンテナを受け止め続ける。そのストレスを少しでも軽くするため、上圷はコンテナを静かに着地させる。コンテナを着地点の上空20センチほどの位置でいったん静止させ、ゆっくり降ろすのだ。
効率を上げることよりも、仲間のために“やさしい運転”をする。それが作業員たちのチームワークを生み、世界屈指の効率という成果につながっているという。
効率重視の運転でも成果は上がるかもしれない。しかし、そこに仲間を思う“やさしさ”が存在しなければ、その結果に価値はないと上圷は考えている。

写真ガントリークレーン
“港のキリン”の愛称をもつ

写真運転室はガラス張り
目視で50メートル下のコンテナをつかむ

写真上圷の“やさしい運転”には人柄が映し出されていると評判だ


攻めてこそ守れる、安全がある

船内や地上で働く多くの仲間たちの安全を守るために、上圷が貫く姿勢。「風でコンテナが揺られたから、すぐに止める」「雪で距離感がつかみにくいから、やめる」。一見、安全を確保しているように思いがちだが、それは本当の危険回避ではないと上圷は考えている。「恐怖心のあまり逃げただけで、リスクを潰したことにはならない。」と言う。
風でコンテナが揺れるときは、どの程度の揺れなら大丈夫なのかを見極め、攻めの運転をする。それは、裏を返せば「何が危険か」を判断していることになる。「安全」と「危険」の境界線をしっかりと見据えるからこそ、本当の安全が担保されると上圷は考えている。そして危険を回避する手段として、ワザが存在するのだという。そのために日々、腕を磨き続ける。

写真2月14日 豪雪の横浜港
写真ベテランになった今も、技を磨き続ける


淡々と、集中する

「淡々」という言葉を、上圷はよく口にする。いかなるときも平静を保つことを意識しているという。
ワイヤーロープでつるされているコンテナは、レバーを握るわずかな力加減や、コンマ何秒の操作のズレによってたちまち揺れてしまう。船の出港時間が迫っている焦り、何か心配事がある日の不安感・・・そんな感情のブレはコンテナの揺れとなって現れてしまう。そのため、上圷は運転に臨むとき“淡々”を貫く。考えるのは、眼下で働く仲間たちのために優しい運転をすることのみ。晴れの日も、雨の日も、気分が乗らない日でも常に一定の感情で、安定した運転をする。それがガンマンとして最も大切なことであり、同時に最も難しいことでもある。

写真港の仕事は24時間体制
深夜の岸壁で出港に立ち会う

写真口癖は“できることを、淡々と”


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

ひとことで言えば「できることを淡々とやる人間」だと思うんですけど。その「できること」を追い求めていく、常に追い求めていくということだと思います。

クレーン運転士 上圷(かみあくつ)茂


放送されなかった流儀

“いぶし銀”の輝きを放て

ガントリーの運転では、体力・集中力・視力を酷使しなければならない。そのため、業界では50歳が限界だと言われている。実際、そのころにガントリーを降り、地上勤務に回る人は多い。
上圷は、ことし48歳を迎える。だが、「可能な限り、ガンマンを続けたい」と語る。この先、操作スピードが落ち、後輩たちに追い抜かれるかもしれない。だが、それでもよいと思っている。「歳を重ねたガンマンにしか果たせない役割があるはず。例えば悪天候など厳しい条件の日でも、自分が動じずに淡々と運転する姿を見せることで仲間に安心感を与えられたら。」と語る。目指すのはベテランにしか出せない“いぶし銀”のような渋いガンマンだ。

写真日々、筋トレは欠かさない
疲れにくい体を目指す