スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第228回 2014年4月14日放送

まっすぐ無心に、人生を診る 外科医・笹子三津留



がんに、“絶対”はない

かつて、がん治療の最高峰・国立がん研究センターで、2,000件を超える手術を行い、副院長にまで上り詰めた笹子。いまや胃がん治療の世界では「最後の砦(とりで)」とまで称されるほどだが、胃がんと向き合って35年、笹子が痛感するのは、“がんという病気には絶対がない”ということだという。
「あの人のがんは絶対に残っていると、取りきれなかったと思っているのに、最終的には治った人とかもいるのはいるんですね。絶対に治らないということもないし、絶対に治るっていうこともない病気だから、100%と0%はありません。」
笹子は“絶対がない”からこそ、早期の胃がんでも油断せず、進行した難しいがんの治療でも諦めずに自分のできるベストを尽くす。

写真がんと向き合って35年、どんな難しい手術でも笹子はひるまず立ち向かう


限界を伝えなければ、信頼は生まれない

胃がんの治療は、がんの再発やさまざまな合併症との果てなき戦いだ。そのため笹子は、手術だけではなく、患者への説明の仕方にも徹底的にこだわっている。例えば、合併症の発生率など、1%に満たないようなリスクでも、必ず患者に伝える。手術でできることと、できないことを患者が納得するまで、時間をかけて説明していく。
「ブラックジャックみたいに奇想天外なことをしてでもなんでも助けますみたいな話じゃ終わらない世界ですよね。そんなことはないから、私に任せてくれたら100%助かりますみたいなことは、僕は言わないですよね。」
治療の限界を患者に納得してもらうのは簡単ではないが、患者と腹を割ってとことん話し合えば、患者と医師はともに戦う仲間になれる。それが笹子の信念だ。

写真笹子は絵を描きながら、手術後に起こり得る合併症や食事法の変化など患者が納得するまで説明を尽くす


“無心”で、臨む

胃がんの手術の難しさは、胃の摘出そのものにあるのではなく、胃の周辺に潜むがんを取り除くことだ。
1つでもがん細胞を残したまま手術を終えてしまうと、再発は免れない。そのため笹子は、メスの先に神経を集中させ、その引っかかり具合などの感触から、がんの転移を察知し取り除いていく。高い集中力が求められる手術中、笹子は無心で手術に取り組んでいるという。
「おなかを開けて手術が始まると、誰のおなかっていうことはもう忘れてます。もう手術しているときは、がんとおなかの中の臓器の世界ですべて判断しています。」
その結果、笹子は通常生存率が30%しかない進行がんの手術においても、50%を超える数字をたたきだすことに成功している。(※ステージⅢC 5年生存率 50.6%)

写真手術中、笹子はほとんど瞬きをしない ただ目の前の臓器の世界に没頭する


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分の技術の世界で、常に進歩する余地を求め続ける人であり、で、自分が到達した技術、学んだ技術、経験を、次の世代に伝えようとする。そういう風に思う人が本当のプロじゃないかなと思いますね。

外科医 笹子三津留


放送されなかった流儀

病気を診るのではなく、病人を診る

日本で年間5万人がなくなる胃がん。笹子のもとには、ほかの病院で治療が難しいといわれた患者が、次々とやってくる。治療にあたるとき、基本姿勢として大切にしているのが、「病人を診る」ということだ。「病気を診るんじゃなくて、病人を診る。やっぱり人生全体の中で、選択肢を考えた方がいいっていうことですよね。」
笹子は、がんを治すことだけに目を奪われることなく、患者の年齢や生き甲斐、家族なども鑑みて、治療の選択肢をいくつも提示する。そして患者自身に治療法を選んでもらうことで、患者の人生にあったサポートができると考えている。

写真手術の方法も患者に理解してもらえるまで説明し、患者に選んでもらう
患者が望まなければ、手術はしないと決めている