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これまでの放送

第221回 2014年1月20日放送

未来を拓(ひら)く、希望のサイボーグ ロボット研究・山海嘉之



“あなたのため”から 革新技術は生まれる

世界初のサイボーグ型ロボットを生み出した山海。人が筋肉を動かす時に出す「動け」という意識を【電気信号】として解析し、人間の複雑な動きを瞬時に実行できるロボットだ。今このロボットが大きな注目を集めるのは、リハビリの分野。脊髄損傷や脳卒中になり、まひを抱える人々が、山海のロボットを装着して何度もまひした部位を動かすことで、「動いた」という感覚が脳にフィードバックされていく。これが脳神経機能の回復や治療につながり、これまでのリハビリでは考えられなかった身体機能の改善がなされる、と注目されているのだ。こうした山海の技術は、技術を利用する人々に”寄り添っていく”こと進化していく。ロボットをどう改良すればその人の症状が改善していくのか、困難を抱える人個人に徹底的に向き合っていく。
「たった一人の方に対してピタッと合わせた技術がうまくできれば、それはその方のものでしかないのかもしれませんが、実はその背後には類似の多くの方がいらっしゃるので、そうした方々にフィードバックできる。それが一つまた大きな扉を開けることになって、また新しい技術につながっていく」

写真山海は現場が大好きだ。困難を抱える人々に徹底的に寄り添う
写真山海のサイボーグ型ロボットは、災害現場や介護現場、リハビリ施設などで使われる


スパイシー

山海は大学院に進学後、ロボット研究に本格的に打ち込んでいった。学会や論文を書くことをやめ、周囲からは無謀だと呆れられても、独自の分野を切り開くことに全精力をかけ、研究に没頭した。しかし、世界初のサイボーグ型ロボットを生み出すための実験は、端から見れば、失敗の連続。実験は、数万回にも及んだ。その前人未踏の挑戦を支えたのは、発想の転換だった。「つらいこともあとから振り返れば、人生の調味料ではないか」。山海は、つらい時には「スパイシー!」と天を仰いでつぶやき、世界最先端の研究に邁進していった。「困ったなという時もありますが、『スパイシー!』と叫びながらまた歩んでいく。苦労ではあっても、苦痛ではないという生き方です。限られた人生の中で『生きる覚悟』を持って生きていく。そうでもないと未来開拓への挑戦などできやしません」

写真「苦労であっても苦痛ではない」 山海は、世界最先端を突き進む


“想い”を 力に

山海の世界最先端の技術への期待は、日に日に高まっている。中でも、全身の筋肉が徐々に弱くなっていく難病・ALSを抱えるなど、周囲とのコミュニケーションの取りにくさに悩む人々や、その家族からの期待は大きい。山海が今実用化を目指しているのは、サイボーグ型ロボットの【電気信号】を取り出す技術を応用し、意識するだけでパソコンに文字が打てるようになる装置。山海は、難病を抱える人々やその家族の「もっと自由にコミュニケーションが取れるようになりたい」という“想い”に共感し、装置の改良を急いでいく。この“想い”こそが、山海の技術革新の最も大きな原動力となっている。
「人を思いやる心こそが、技術を進化させていくのだと思います。人間の生きる時間には限りがあるわけですが、それがある以上とことんスピードアップして技術革新をしていく。私の時間が許す限り、一緒に伴走していきたいなと思っています」

写真
写真困難を抱える人々の”想い”を原動力に、研究に邁進する山海


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分自身がとことんやり抜いたことに対して、次の瞬間にはその自分がやり抜いたことをさらに超えていこうとする、そういう気持ちを持っている人たちのこと。あるいは、そういう気持ちを持ち続けていく、チャレンジャーのような人。それが、プロフェッショナルというものなんじゃないでしょうかね。

ロボット研究 山海嘉之


放送されなかった流儀

未来を切り拓(ひら)く“覚悟”

山海の研究の原点にあるのは、小学3年生の時に母親からもらったSF小説『われはロボット』。近未来社会における人間とロボットの共生をテーマに描かれたこの本の影響で、山海は、将来はロボット研究者になって社会を変えていきたい、と強く思うようになる。そして、小学5年生で書いた文集で、「人の役に立つロボットを作る」と周囲に宣言。この信念は、世界初のサイボーグ型ロボットを開発した今でも、変わることはない。「技術は人と共にある。あるいは、人の一部になっていくことが基本。その意味で、技術には血が通っていなければならない。人に喜んで頂けるのだったら、自分ができることであれば頑張ってチャレンジしていきたい。たったそれだけのことなんだと思います」

写真子どもの頃の「夢」を原点に、山海は未来を切り拓(ひら)いていく