37歳という若さでパリのトップテーラーに名を連ねる鈴木。その真骨頂というべきワザが、型紙づくりだ。型紙は、服の設計図。洋服の完成度を大きく左右する。立体であるジャケットを平面図に落とし込んでいく。鈴木は、型紙を引くとき独り言で数字をつぶやきながら、ミリ単位の調整をする。例えば、肩の幅を3ミリ変えると、袖の長さも変わる。全体のバランスを考えると、着丈やポケットの位置にも影響が出る。そのすべてを頭の中で想像し、形を決めていく。
このとき、鈴木は攻めの姿勢を崩さない。失敗が許されない作業だけに、無難な形にとどめておきたい、と思うことも多々ある。だが、そのためらいこそが、仕上がりを中途半端なものにしてしまうという。“ある程度身体に合っている”のではなく“完璧に合っている”服を作ってこそ、一流のテーラー。
1着のスーツの型紙を引くのに費やす時間は1~2時間。少しでも気を緩めると“ためらい”の気持ちが湧き上がるため、毎回、一気に引き切る。