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これまでの放送

スペシャル 2013年9月9日放送

育ての流儀スペシャル



すべては「納得」から始まる

ダルビッシュ有、田中将大らを育てた投手コーチ・佐藤義則。育成で最も大切にしているのが、選手を「納得」させることだ。プロ選手は誰もがアマチュアの世界で名を成し、実績を重ねてきた者ばかり。自分のやり方に固執する者も多い。その方法をなぜ変えねばならないか、佐藤は運動の理論をベースに丁寧に説明し、さらに実際にやらせていい球が出ることを実感させることで、選手を納得させていく。その説得力こそ佐藤の真骨頂だ。
そして佐藤は、選手生命を左右しかねない投球フォームの修正も、自信を持っておこなう。その裏には、各投手のピッチングを誰よりも見ている、という強い自負がある。どんなフォームの時にいい球を放れているのか、関節の動き1つ1つまで目に焼き付けていると思えるからこそ、覚悟を持った指導が出来る。選手の横に立ち、一球ごとによいか悪いかをはっきりと伝えていく。「悪いところを修正するよりは、いいところを伸ばしながら、少しずつ悪いところを直す方がいい、自分はそうしている」と語る佐藤。こうして球界を代表するエースたちを育て上げてきた。

写真「悪くすることは絶対にない。ただ、どれだけの早さで伸びるか。」そこが問題だと佐藤は言う


嘘で褒めない、率直であれ

北島康介のオリンピック2大会連続2種目金メダルをはじめ、日本競泳陣の活躍を支える競泳コーチ・平井伯昌。
平井の物言いは率直だ。たとえば記録が届かない選手には、残念ながらオリンピックのメダルを取るという目標は難しい、その代わりリレーで頑張らないか、など現実の分析を正直に伝える。希望的観測をもとに、むやみに褒めたりもしない。北島康介によれば、「だからこそ平井コーチにメダルが取れると言われると、本当に取れると信じられる」のだという。
厳しい現実を伝え、その上で選手に具体的な改善の手だてを示していく。その時気をつけているのが、ワンポイントで伝えること。ときにナーバスになっている選手を迷わせないために、簡潔に要点を示すのだ。
そしてもう一つ、平井のワザが発揮されるのが、勝負前のメンタル面を支えることだ。実力者どうしの勝負では、「先に自分を崩した者が負ける」。だから選手が動揺していると見た時、平井は選手ととことん話し合う。そこには、自分の意志で目標に進ませる、独自の思いがあった。

写真「メンタル面の負担を、少しでも軽くするのもコーチの役割」と語る平井


お前の考えは、どうなんだ?

1000年以上にわたって受け継がれてきた宮大工の技。その世界でかつて、“鬼”と呼ばれた名工がいた。西岡常一さん。法隆寺大改修や薬師寺再建を成し遂げたその卓越した技量と共に、数々の弟子を育て上げた伝説的な棟りょうとして知られている。現在、名棟りょうとして活躍する岩手在住の菊池恭二も、西岡さんが育てた1人だ。
いったい西岡さんの育成法とはどんなものだったのか?
菊池には、師匠・西岡が発したある言葉が深く印象に残っている。なにげなく質問した菊池に対して、西岡は鋭く、「お前の考えはどうなんだ?」と聞き返してきた。なにも答えられない菊池。そのとき西岡は、「菊池君、わしな、学校の先生やあらへんで。自分でよう勉強しなはれや。」と突き放したという。なにを聞くのも構わない。だが人に何かを聞くからには、自分なりの考えを持っているべき、それが西岡の教えだった。
突き詰めることなく問いを発したことを恥じた菊池は、以来師匠の動きを見つめるようになった。言葉で教わる以上に、西岡と同じ空気を吸い、その姿を見ること、そしてなぜ師匠はそうしているのかをみずから考えることが、なによりの学びだったと菊池は言う。

写真西岡と過ごした6年間の修行の日々は、菊池にとって無形の財産だ


啐啄(そったく)

学級崩壊したクラスを次々と立て直してきた小学校教師、菊池省三。彼が最も大切にしている教育の哲学が「啐啄(そったく)」だ。啐(そつ)とは、ひな鳥が卵から出ようとして殻を破る音。啄(たく)とは、親鳥が外側から殻をつつく音。卵が無事にかえるには、両者のタイミングが合わなければならない。菊池は、教育の神髄がここにあると考える。子どもの中に“変わりたい”“伸びたい”という気持ちが芽生えた瞬間を見極め、背中を押すのだ。

写真児童たちが書く“成長ノート”。  これを書いた瞬間、この子は確かにそう思っていた・・・、そう信じて長い返事を書く。


寄り添って、背中を押す

香川県の定時制高校で、さまざまな事情を抱える生徒たちと向き合い続けてきた高校教師・岡田倫代。数々の生徒たちが岡田のもとで立ち直ってきた。徹底的に話を聞き、その子どもを理解しながら、信頼関係を結んでいく岡田。
そのやさしいまなざしと、関わるタイミングを見極める鋭い感性は、学校への関心が低かった1人の少女を劇的に変えていった。

写真「差し出した手は、絶対に引っ込めないんです。」岡田はそう言い切った。