草木染めで色糸を染め、紬織りの着物を織る。そのたぐいまれな技で、志村は重要無形文化財、人間国宝に認定されている。藍や紅花、クチナシなど、さまざまな植物を用いて多彩な色を生み出す。草木染めは、植物を煮出す温度や時間、さらには媒染液の種類などによって、現れる色は大きく異なる。志村は経験と技術を駆使し、その植物が持つ最高の色を染めるよう常に心がけている。
草木染めで色糸を染め、紬織りの着物を織る。そのたぐいまれな技で、志村は重要無形文化財、人間国宝に認定されている。藍や紅花、クチナシなど、さまざまな植物を用いて多彩な色を生み出す。草木染めは、植物を煮出す温度や時間、さらには媒染液の種類などによって、現れる色は大きく異なる。志村は経験と技術を駆使し、その植物が持つ最高の色を染めるよう常に心がけている。
草木染めは、植物のいのちを奪う残酷な行為でもある。それゆえに、志村は強い覚悟を持って挑む。「糸に変身する色は、死と再生があってこそ生きる。ただ採ってきて染めたではないんです。本当に大切ないのちを頂いているという意識がなければ、草木染めはやってはいけないことなんです」。
元は専業主婦だった志村。31歳のとき、染織の道へと入った。以来、色の世界を究めようと、ただひたすらに植物と向き合い、試行錯誤を積み重ねてきた。88歳となった今も、探求心が揺らぐことはない。まだ見ぬ色を求めて、果てなき戦いを続けている。「まだ手に触れていないような、目に見えて無いような色があるかなと思っています。導きの書はないけど、導きの色はある。それを追い求めているんです」。
通常、機織りは設計図のような緻密なデザイン画を必要とする。だが志村はかなりおおざっぱなデザイン画しか作らない。計画通りに織るのではなく、心のおもむくままに、即興で色糸をつむぐことを心がけているのだ。「朝目が覚めた時に今ちょっと春めいてきたなと思ったら、いつもよりもちょっと明るめの色を思わず知らず入れるんです。でもそれが面白いんだと思います。緊張感がある。それがないといい物はできないかもね」。