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第199回 2013年5月6日放送

桜よ、永遠に美しく咲け 樹木医・小林勝



老木こそ、美しい

小林が管理する弘前公園には、樹齢100年を超えるソメイヨシノの老木が300本以上立ち並ぶ。一般にソメイヨシノは樹齢60年を超えると、木の勢いが衰え、花の数が減ると言われているが、小林は老木を伐採し、若い木に植えかえることをよしとしない。老木は、太い幹と、横に大きく伸びた見事な枝ぶりを兼ね備える。上に伸びる傾向がある若い木には見られない迫力が、老木ならではの魅力だと、小林は考える。一度伐採してしまえば失われてしまうこの老木の美しさを保つために、小林は日々、病気や問題を抱えた木々を治療し続ける。

写真樹齢100年を超えるソメイヨシノは貫禄があると、小林は言う


生きる力を、引き出す

小林は、毎年冬に2600本の桜すべてに対し、枝の剪定(せんてい)を行っている。病気の枝はもちろんのこと、枝の伸びる方向や密集具合などから、病気でない枝までも大胆に切り落とす。昔から「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という言い伝えがあるように、桜は切り口から病気にかかりやすく、大胆な剪定はタブーとされてきた。だが、小林は積極的な剪定を推し進める。
木には、枝を切ると植物ホルモンの働きが変化し、新たに若い枝を伸ばす性質がある。それを利用して、若い枝を出し、木を若返らせようというのが小林の狙いだ。人間が手入れを続けて、木自体の力を引き出してやれば、永遠に生き続けることも可能だと、小林は考える。

写真小林は的確な剪定箇所を素早く見い出していく


未来のために、考え抜く

毎年桜が咲くのを心待ちにしている市民たち。その思いを背負う小林には、いつも重圧がのしかかる。自分の決断は、本当に美しい桜を咲かせ続けるためになるのか、時には1か所の剪定に対して何十分も考え抜く。弘前の桜を代々守ってきた人たちの、そうした決断の積み重ねが、今の美しい桜を作っていることを実感する小林。自らも、桜を未来につないでいけるよう、真摯(しんし)に考える。

写真現場で悩み始める小林


日本一、一生懸命であれ

小林は、樹木医である兄・範士さんから、“日本一”と称されることもある弘前公園の桜を受け継いだ。
小林と範士さんは、かつて素朴な疑問を抱いたことがあった。
“日本一”と言われる桜は全国に何か所もあり、美しさは客観的にはかることはできない。
では一体、弘前の桜は何が“日本一”といえるのか?
2人で議論した結果、桜を美しく咲かせ続けるための一生懸命さは、どこにも負けないという話しになった。
桜の手入れに対し、どんなときも妥協せず、一生懸命に。その気概をもたなければ、日本一いい桜は決して咲かないというのが、小林の信条となっている。

写真兄・範士さんは、病気で引退した今も公園を訪ね、小林と桜の開花予想の議論を楽しむ。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

今すぐ結果が出なくても、将来の理想を成し遂げるために、今できること、やらなくちゃいけないこと、そういうのを確実にやっていく、それがプロフェッショナルだと思います。

樹木医 小林勝


The Professional's Tools(プロフェッショナルの道具)

地域が生んだ桜の若返り術

老木が立ち並ぶ弘前公園では、「弘前方式」と呼ばれる管理方法が50年以上前から代々行われている。
その1つである剪定は、弘前の名物・りんご栽培を参考にしている。
例えば、幹を大きく切る「芯止め」というやり方で、枝に日光を当てて成長を良くする。
さらに、切り口から病気にかかりにくくするために、殺菌効果のある墨汁を塗るという方法も、りんご農家から学んだ知恵だ。

写真直径1センチの小さな切り口にも1つ1つ墨を塗っていく