スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第198回 2013年4月22日放送

ワクワクが、才能を呼び覚ます 麻薬探知犬育成・菊地昭洋



ワクワクが、才能を呼び覚ます

犬が麻薬を探すのは、麻薬の匂いを見つけて知らせると、ハンドラーがタオルのおもちゃで楽しく遊んでくれるから。そのため、麻薬発見後の「遊び」が楽しくないと、犬の探知意欲はすぐに下がってしまう。犬の意欲を保つため、毎日、毎回、犬をワクワクさせなければならない。 そこで、菊地は各犬の性格や好みに合わせて、次々と新しい遊びを繰り出していく。ストッキングの中にタオルを入れて犬に引きちぎらせたり、おもちゃを紐(ひも)で壁に結びつけて、綱引きさせてみたり…。 遊びが楽しいと、犬は麻薬を必死に探そうとする。夢中になると自然と集中力が湧き上がり、かすかな匂いも見逃さない優秀な犬になっていく。 どれだけ目新しい遊びを考え出せるか、どれだけ犬を楽しませることができるか、麻薬探知犬育成の仕事は、アイデア勝負の仕事でもある。

写真東京税関・麻薬探知犬訓練センターでは、全国から集められた犬が4か月の訓練を受ける
写真ストッキングに入れたタオルを夢中で引っ張る犬


犬は、心の奥を感じ取っている

犬には人間の言葉は通じない。だが、犬はそばにいる人の気持ちを敏感に感じ取っていると菊地は考えている。単に形式的に「Good boy(良い子だ)」と訓練用語を口にしても、全力で褒めていなければ絶対に犬には伝わらない。犬は人間の言葉の単語を理解しているわけではなく、声の調子やタイミングで人の気持ちを読み取っているからだ。うわべだけの言葉や態度は通用しない。麻薬探知犬に関わる人間には、犬と共に本気で麻薬を見つけ出そうとする意気込み、麻薬を見つけた後には心から楽しんで一緒に遊ぶことが求められる。

写真大型犬はシャンプーをするのも一苦労。
犬が体をブルブルさせて飛ばした水滴で、人間もズブぬれになる。

写真毎日2回の毛づくろいの時間は、犬にとって至福の時間。いつもはやんちゃな犬も、このときばかりは気持ちよさそうにじっとしている。


悪いのは犬ではなく、自分

よそ見ばかりする“集中力のない犬”。高い所が怖くて貨物の上に飛び乗れない“臆病な犬”。番組に登場したゼノのように、鼻だけでなく目を使って探してしまう“嗅ぎが甘い犬”。犬も人間と同じ生き物である以上、必ず短所はある。それを改善して一人前の麻薬探知犬に育て上げるのが菊地の仕事だ。例えば、犬が高所恐怖症なら、人間が一緒に貨物の上にのぼって遊んでやり、高い所は怖い場所ではなく、楽しい場所だと教えればいい。検査中によそ見をするのなら、訓練に楽しい遊びを取り入れ、検査に夢中にさせればいい。どんなに難しい犬でも、必ず道はある。犬が出来ないのは犬が悪いのではなく、その犬にピッタリの訓練方法を人間が編み出せていないからだ。菊地はいかなるときも自分に厳しく、妥協を許さない。撮影中、菊地は何度も「“できない”とは言わない、言いたくない」と口にしていた。穏やかな外見からは想像がつかないほど、強い信念と熱い情熱の持ち主だ。

写真VTRに登場したゼノ
写真撮影中に大あくび
写真ゼノの暗闇訓練


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

“できない”と言わない人。難しい課題に対しても、何か工夫してアプローチできるかな、と。諦めない、いろんな方法を工夫してトライしていく。

麻薬探知犬育成 菊地昭洋


放送されなかった流儀

ただ実行あるのみ

麻薬探知犬の訓練方法にマニュアルはない。菊地は、部下たちに指導する時も「考えても仕方ない。まずやってみれば?」とよく言う。犬にも個性があり、その時の感情によってどんな反応をするかは誰にも読めない。予測不可能な犬の動きをあれこれ考えるよりも、訓練法を思いついたら、まず試してみる。うまくいけば続ければいいし、イマイチなら方向修正すればいい。手間を惜しまず実行してみる、それが菊地流。膨大な試行錯誤の繰り返しが、日本を守る麻薬探知犬を生み出している。

写真菊地はこれまで1000頭以上の犬の育成に携わってきた