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これまでの放送

スペシャル 2012年9月10日放送

高倉健インタビュースペシャル 映画俳優・高倉健



感じたいものがあるから、立ち続ける

高倉の立ち居振る舞いは、数多くの伝説とともに語られてきた。その中でも最も有名なのは、「現場で座らない」というものだ。今回、81才で臨んだ映画の現場でも、スタッフのそばにそっと立ち続ける姿が見られた。高倉はこの理由を次のように述べている。
「居たい。そばに。なるべく居て見ていたいですね。鳥肌が立つ思いの時ありますよ。スタッフの、ぼくは狂気の集団と言ったけど、本当にあの人たちの努力ですよね。一番やってる人たちが一番お金もらってない人たちなんだよね。おかしいんですけど。反省しますね。本当は後ろの人たちの力なんですよね。そういうの分かるのに何十年もかかるよね。え~ってぞくぞくするのが。何十年もかかりますよ。ぱっときても分からない」

写真スタッフたちが駆け回るそばで、そっと立ち続ける高倉


気持ちは、映る

高倉は大仰な芝居を好まない。気持ちが本物なら、大仰な芝居に頼らずとも、それは画面に映ると信じているからだ。高倉が今回、そのことについて語った言葉。
「気持ちは映らないっていうけど、でもやっぱり映るんですよ。どこかでそういうのがあるんだよ。それがない奴は、きっとちょっとキラっと光らないんだよね。映画俳優って一番大事なこと何って言ったら、その感受性のとこだけなのかなっていう気がしますね。それはもう、自分の感性、感じられる心を大事にする、それしかないんじゃないのって。それはやっぱり良い映画を見たり、非常にストレートですけど、自分が感じられる映画、それから感じられる監督とか俳優さんを見つけて、その人たちのものを追っかける。それから自国のものばかり見ないで、外国のものも意識的に見る。それから、自分が感動できる小説を読む、あとは絵をいろんな美術品を見る。やっぱり年齢を重ねないとなかなかそれは。」

写真最新作でも高倉独自の芝居を見せた


神々しい顔

高倉は今回、大ベテラン・大滝秀治(87歳)との芝居で涙を流した。高倉自身、あの場面で泣くとは思わなかったというシーンだ。大滝のセリフは、「久しぶりにきれいな海ば見た」という短いもの。たったそれだけの言葉に、この漁村で暮らす人々の生活の厳しさが、凝縮して聞こえたのだという。高倉が、その大滝の芝居について語った言葉。
「大滝さんが言われると、ああいうふうに、なんかこの作品のテーマみたいなね。すごいなあと。ぼくはその話は、佐藤くんと草彅くんにしたんですけど。たった一人の俳優さんが、今回の出演者の中では最高齢の人ですよね、ああいうことができる仕事なんだなあと。はあって思いましたね。誰かがスナップ写真を撮ってるとき、大滝さん帰られる時、旅館の前で僕、最敬礼してるよね。あれ正直な反応だよね。メイクの佐藤が言ってたのかな、『これ大滝さん、何なのかな、メイキャップも何もしてない顔が神々しい』って言ったよ。神々しいお顔されてるって。神々しいって・・・神々しいってメイキャップしてないのにそれどういうことなのかなって。それを知りたいよって。それでどうやったら神々しくなれるか分かれば、俳優として何段も上がったわけだから、ぜひなんて。仏像のようだって言ってた。仏像の顔していらっしゃる。ものすごい参考になりましたね。ああいう芝居を目の当たりで見ただけで、この作品に出てよかったと思ってます。それぐらい強烈だった。うへえって思いましたよ。そういうことができる、俳優って言うのが商売なんですよね。(大滝さんに)負けたくないねえ、負けたくない。勝負しようとは思わないけど、なんとか追っかけたいと思いますよ。まだ何年かは働けるもんね。追っかけたいと思う。縁があって俳優を選んだんだからね。やっぱり出会う人でしょうね。どういう人に人生で出会うか、そこで決まるんじゃないですかね。やっぱりいい人に出会うと、いろいろなものをもらいますよね。」

写真ロケ先のホテルの窓際で語りに語った


6年の空白

高倉の行動には、1つ、不思議な決まり事がある。1つの作品を終えるたび、スクリーンから離れ、人前から姿を消すのだ。特に今回の映画「あなたへ」に主演する前には、自身最長となる6年もの空白期間が生まれている。それはいったいなぜなのか。高倉は、その裏に大きな葛藤があったことを明かした。それは、1つの作品を終えるたびに高倉を襲うという、深い喪失感に関係しているという。前回主演した日中合作の映画「単騎、千里を走る。」の後、中国人の共演者やスタッフたちと別れるときに感じた気持ちについて、高倉は語った。
「分かんないね・・・。多分ね、この別れるのに涙が出るとかっていうのは、お芝居の部分ではないところで、泣いているのだと思うんですよね。ああ楽しかったとか、別れたくないとか、もう二度と会えないかもしれないとか。特に中国のスタッフは。だから、そういうものを自分がお金に取っ替えてるっていう職業ってのは、悲しいなあってどっかで思ったのかもしれないね。それを売り物にするものでは、ないんじゃないかなっていう。でもしょうがないですよね、同じ人とずっとはやれないんだから。そういう切ない仕事なんですよ。だから、それはそんなに気を入れなければいいんだっていう、そのこともわかってるんだけども、やっぱり出会って仕事だ、出会って仕事だって言う。分かってるんだけど、強烈なのを受けると、しばらく。なんとなく、恋愛みたいなものなんじゃないの。多分、恋愛だよね。じゃなきゃ泣きませんよ。お金もらうところじゃないんだもん、映ってないところで泣くんだから。泣くんですよ。大の大人が。それが中国は強烈だったってことでしょうね。いや、今でも分かりませんよ。じゃあ、なんで今度はやったのって言ったら、こんなに断ってばかりいると、またこれ断ったら監督と、もうできなくなる年齢が来てるんじゃないかなと、2人とも。それはもう1本撮っておきたいよなっていうのが、今回の。本音を言えばそうかもしれないよ。」

写真なぜ6年も空いたのか。その本当の理由は高倉自身にもわからないという。