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第161回 2012年6月25日放送

闘う介護、覚悟の現場 介護福祉士・和田行男



人として“普通に生きる姿”を支える

日本全国で200万人を超えるといわれる認知症。その介護の世界に、新しい風を吹き込み続ける和田。介護の現場に飛び込んだのは、25年前。その当時、認知症になれば、多くの行動が制限され、“普通の暮らし”とはかけ離れた状態で介護されることが当たり前のことと思われていた。
そうした状況に疑問を感じた和田は、介護の仕方によっては“普通に生きる姿”を続けられると主張。認知症のお年寄りたちが家庭的な環境のもと、少人数で共同生活を送る「グループホーム」で、先駆的な取り組みを続けてきた。
和田の施設では、お年寄りたちは、自分でできることは自分でするのがルール。包丁を握り、火を使って料理をし、洗濯、掃除を行い、街へ買い物や散髪にも出かけていく。もちろんすべてを完璧にこなせるわけではない。けがや事故のリスクも常にある。それでも和田は、お年寄り1人1人の認知症の度合いや身体能力などを見極めながら、できる限り“普通の暮らし”を維持できるよう奮闘し続ける。

写真
写真認知症になる前とほとんど変わらない姿がそこにはある。


何があっても、“人の尊厳”を守る

和田の施設では、夜間帯以外は玄関に鍵をかけていないため、出入りが自由にできる。
もちろん鍵をかけない分、入居者が外に出れば、扉につけたセンサーが鳴ったり、職員が付きそうなどの安全対策は講じている。しかし、職員が一瞬目を離した隙に出て行ってしまい、長時間行方不明になってしまうケースもどうしても発生する場合がある。そうしたアクシデントが起きるたびに「鍵をかけないのは危険だ」という批判を受けてきた。
それでも、和田は鍵をかけようとはしない。鍵をかけ、行動を制限すれば事故などのリスクは減る。しかし、和田は、安全を確保することだけが唯一正しい答えとは言えないのではないかと、常に自分の胸に問いかけ続ける。
和田は言う。「人間って何がすてきって、自分の意志を行動に移せることってどれほどすてきか。その人間にとって一番すてきなことを奪ったらあかん。できるだけそのことを守る、守り手にならないかんと思っている」。

写真自問自答を続けながら、和田はお年寄りたちと向き合う


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自問自答していく人。自分の言ってることややっていることに問題を感じて、正解まではいかなくても、答えを出していくというか、それを続けられる人がプロフェッショナルかな。

介護福祉士 和田行男


プロフェッショナルのこだわり

和田は、専門的な技術と知識で介護に当たる国家資格「介護福祉士」の1人だ。和田の施設には、結果的に認知症の進行や身体的な衰えを遅らせるのに役立つと考えられるこだわりが随所にある。入居者の部屋の扉は、すべて形も色も同じ、表札も掲げられていない。あえてわかりにくくすることで、自分の部屋を覚えてもらうよう促す工夫だ。さらに、部屋の照明のヒモもこだわりの1つ。毎日、ヒモを引っ張ることで背筋が曲がらないようにするのが狙いだ。

写真
写真小さなこだわりの積み重ねが、“普通の暮らし”を支える鍵