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これまでの放送

第194回 2012年5月28日放送

石工一代、叩(たた)きあげ 石工・左野勝司



手間を惜しむな、積み上げろ

石を叩(たた)いて55年の経験を持つ、石工・左野勝司(69歳)。これまで、イースター島のモアイ像の修復、エジプト・スフィンクスの保全調査、そして1300年の歴史で劣化した高松塚古墳の解体など、世界18か国でその腕を振るってきた。
左野は、機械を極力使わず、徹底的にハンマーとノミだけの作業にこだわる。石の「目」と呼ばれる特徴を見極め、何時間もハンマーを降り続けて自らの思い描く形に石を仕上げていく。
左野の愚直な姿勢は、石を修復する時も変わらない。今年、左野に舞い込んできた、世界遺産、奈良・春日大社の石灯籠修復の依頼。平安時代からの灯籠が立ち並ぶ、重要な文化財だ。通常、灯籠の修復は、傷んだ部分全体を取り替え、壊れた部分はカットして新しい石を継ぎ足すが、左野はできるだけ元の石を生かす方法を選ぶ。石の割れ面に合わせて新しい石を彫ることで元々の凹凸に石同士がかみ合い、100年単位で見れば、長持ちすると考えるからだ。その方法が石にとって最も良いなら惜しみなく時間と手間を注ぎ込む左野。「手間を惜しむな、積み上げろ」。それこそが左野の信念だ。

写真ノミとハンマーだけで石を削る左野
写真石灯籠を独自の方法で修復していく


悔しさを糧とせよ

左野が今年挑んだのは、世界遺産、カンボジアのアンコール遺跡群の解体修復だ。およそ千年の歴史を持つ遺跡群は劣化が激しく、中でも危機リストにも登録されている「西トップ寺院」は、一刻も早い修復が求められていた。
3月。左野はその解体修復に参加し、現地の石工たちを指導することになった。しかし、現地の石工たちはみな経験が浅く、うまく作業を進めることが出来ない。左野は、石工たちの一人をリーダー役として育てようと考えていた。
左野がリーダーを育てるために、試したこと、それは悔しさをあえて味わわせること。遺跡を修復していくには、数十年、もしくは100年以上かかることもある。それを成し遂げていくには、何度も壁にぶつかり、そして努力が無になっていくことだって少なくない。そんな時、悔しさを糧にして、乗り越えていく強さが何よりリーダーには必要となってくる。果たして、その強さをもって修復に立ち向かえるのか。左野は、その若手石工に問いかけ続ける。

写真アンコール遺跡群「西トップ寺院」
写真現地の石工を指導する左野
写真悔しさを糧にして強くなれ


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分ではプロとは感じないもんで、人が、自分が死んだときに決めてくれるもんだと思っています。生涯、石とともにまだまだ歩みたいという気持ちがあり、また、後世に伝えたいものがあるからです。

石工 左野勝司


The Professional's Tools(プロフェッショナルの道具)

矢

石を割るときに欠かせないのが、ハガネ製の「矢」。
ドリルで開けた穴に矢をはめ、ハンマーで叩いて石を割る。重要なのは、石を叩く力加減。石の中心は端よりも強めに叩く。さらに石を叩いた時の「矢」の反響音を聞き分けて、叩く順番、強さを変えていく。「矢」を巧みに扱えば、木を切るよりも早く石を真っ二つにすることができるという。

写真「矢」は、叩く力加減が重要だ


コヤスケ

「矢」で割った石を細かく加工していくのが、「コヤスケ」と呼ばれるノミの一種。
刃先は平たんになっているため、石に当たる角度を微妙に変えることで当たる面積を調整できる。細かく繊細に削るときは当たる面積を小さく、大きく削るときには面積を大きくして石にかかる力を調整する左野、ものの5分で30センチ四方の石を真四角に加工してしまう。

写真20年以上使い続けている「コヤスケ」


筋肉

55年石を叩き続けていた左野。重さ約2キロのハンマーを毎日数千回振るその右手は、左手よりも圧倒的に分厚い筋肉に守られ、巨大化している。その筋肉こそ、左野の誇りだ。

写真左野の両手は、筋肉の厚さが異なる


放送されなかった流儀

10分 反省し、5分 夢を見ろ

左野が、カンボジアの若手石工たちに口をすっぱくして教えるのが、「10分今日した仕事を反省し、明日の仕事のことを5分、夢見る」ことだ。左野自身、1日の終わりには必ず仕事内容をメモに書き出し、道具を整理しながら明日の仕事の段取りを考える。そうすることで仕事をより効率よく進めることができ、また成長も早いと考えている。

写真仕事終わりに、反省を促す