山本には、厨房で日々問い続けていることがある。
「この料理法は、本当に最上なのか?」という疑問だ。
なぜタケノコはアク抜きをするのか?なぜ大ウナギは地焼きにするのか?厳しい修行を通して身につけてきた日本料理の常識に、あらゆる角度から「なぜ?」を問い続ける。その目的はただ1つ、日本料理を「進化」させること。それは、想像を超えた過酷な道だ。
長い歴史を誇る日本料理、今に受け継がれているのは、歴代の名だたる料理人が生み出した最高の料理法だけ。思いつきのアイデアで、すぐに新味を付け加えられるような、簡単な世界ではない。「進化」とは、今まで誰も見出さなかった食材のうま味を、理にかなった方法で、取り出すこと。その食材の最高の味わい方であると確信出来て初めて、本物の「進化」と認められる。
山本は毎晩、営業が終わった深夜から明け方まで、厨房に立ち続ける。料理を化学反応に遡(さかのぼ)って学び、最新の実験器具を駆使し、全身全霊を傾けて、食材の可能性を突き詰めていく。その背中を押すのは、1つの思い。
「日本料理のオリジナルを作った人が、今の世にいたら、同じことをするだろうか?科学技術も流通も進歩した今だからこそできることが必ずあるはず。先人からバトンを受け継ぎ、一歩でも前へ進むこと、その幅だけが、自分が生きた証になると思う。」
化学実験機器のオイルバスを使って魚を加熱する
新料理の試作が成功。深夜の厨房で、思わず万歳!
料理のあらゆる事象に「なぜ?」を問い続ける山本は、「料理とは何か?」という根源的な問いと向き合ってきた。突き詰めてきた山本が、たどり着いた答えは「料理とは精神である」という答えだ。山本は、こう説明する。
「キュウリを一本、半分に折って相手に渡したとする。その行為じたいは、料理とは呼べない。だが、「キュウリは、半分に折り、手でもって食べるのが最高だと僕が考えたからこそ、こうしたんです、あなたのために。」という思いがそこにあるならば、その行為は料理である。そこにあるのは何か?精神でしょう。ここに料理というものの定義がはっきりあるのです。」
料理とは、その行為を指すのではない。食べる人のために、最もおいしい方法を考え抜くその精神にこそ、本質がある。山本は、そう考えている。
仕込みも、盛りつけも、すべてはお客さんが食べる、その一瞬のために。料理は常に真剣勝負だ。
画像をクリックすると動画を見ることができます。
山本は、新たな料理の手法を確立すると、そのワザを余すところなくインターネットで公開している。手順を丹念に撮影し、分かりやすく動画で提示する。また、厨房にシェフ仲間が見学に来れば、質問に何でも応える。
その裏には、驚くべきスピードで発展を遂げている、世界の料理界の現実がある。新たに見つけた可能性を広く発信し、別の料理人にさらにアイデアを付け加えてもらうことで、日本料理全体がダイナミックに発展・進化していく。そんな姿を山本は夢見ている。
新しい料理法の撮影をする。深夜の厨房が撮影スタジオに変わる。