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これまでの放送

第189回 2012年4月9日放送

覚悟をもって、我が道を行く 日本料理人・山本征治



進化こそ、今を生きる者の使命

山本には、厨房で日々問い続けていることがある。
「この料理法は、本当に最上なのか?」という疑問だ。
なぜタケノコはアク抜きをするのか?なぜ大ウナギは地焼きにするのか?厳しい修行を通して身につけてきた日本料理の常識に、あらゆる角度から「なぜ?」を問い続ける。その目的はただ1つ、日本料理を「進化」させること。それは、想像を超えた過酷な道だ。
長い歴史を誇る日本料理、今に受け継がれているのは、歴代の名だたる料理人が生み出した最高の料理法だけ。思いつきのアイデアで、すぐに新味を付け加えられるような、簡単な世界ではない。「進化」とは、今まで誰も見出さなかった食材のうま味を、理にかなった方法で、取り出すこと。その食材の最高の味わい方であると確信出来て初めて、本物の「進化」と認められる。
山本は毎晩、営業が終わった深夜から明け方まで、厨房に立ち続ける。料理を化学反応に遡(さかのぼ)って学び、最新の実験器具を駆使し、全身全霊を傾けて、食材の可能性を突き詰めていく。その背中を押すのは、1つの思い。
「日本料理のオリジナルを作った人が、今の世にいたら、同じことをするだろうか?科学技術も流通も進歩した今だからこそできることが必ずあるはず。先人からバトンを受け継ぎ、一歩でも前へ進むこと、その幅だけが、自分が生きた証になると思う。」

写真化学実験機器のオイルバスを使って魚を加熱する
写真 新料理の試作が成功。深夜の厨房で、思わず万歳!


料理とは、精神である

料理のあらゆる事象に「なぜ?」を問い続ける山本は、「料理とは何か?」という根源的な問いと向き合ってきた。突き詰めてきた山本が、たどり着いた答えは「料理とは精神である」という答えだ。山本は、こう説明する。
「キュウリを一本、半分に折って相手に渡したとする。その行為じたいは、料理とは呼べない。だが、「キュウリは、半分に折り、手でもって食べるのが最高だと僕が考えたからこそ、こうしたんです、あなたのために。」という思いがそこにあるならば、その行為は料理である。そこにあるのは何か?精神でしょう。ここに料理というものの定義がはっきりあるのです。」
料理とは、その行為を指すのではない。食べる人のために、最もおいしい方法を考え抜くその精神にこそ、本質がある。山本は、そう考えている。

写真仕込みも、盛りつけも、すべてはお客さんが食べる、その一瞬のために。料理は常に真剣勝負だ。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

何事も覚悟なんですよね。自分自身の出した結果でしか、自分自身を語ることができないし、自分自身が出した結果でしか人に語ってもらうことができない。そういう世界で生きていくっていう覚悟を決めた人のことだと、僕は思います。

日本料理人 山本征治


プロフェッショナルのこだわり

「料理とは、理(ことわり)を料(はか)ること」。山本は、この言葉を、座右の銘にしている。おいしい料理は、経験や勘で何となく生まれるものではない。理を突き詰め、その理由を分かって調理してこそ本物が生まれるというのが、山本の信念だ。だからこそ、山本は、あらゆる作業に理由を見出す。包丁はなぜその場所に、その角度で入れるのか、鍋はなぜそのタイミングで混ぜるのか、そしてなぜその器を選ぶのか。器の熱伝導率にまで、その説明はおよぶ。
たとえば、イカ刺しの切り方。包丁で、細かく深い刻みを入れるのも、理由あってのことだ。山本は、イカの身の中で、中央部が最も甘いと感じている。だから、その中央部を露出させ、口に当たる表面積を増やすため、細かく深い刻みを入れるのだ。こうすることで、口に入れたときに甘い中央部が舌に当たり、独特の味わいが生み出されるのだ。

お椀(わん)作りでは、風味の引き出し方に理を貫く。たとえば、命となる一番だし。山本は、かつお節をあえて分厚く削り、即座に湯の中に沈ませる。水面に浮くような薄いかつお節では、風味が湯気と共に逃げてしまうから駄目(だめ)なのだという。
しかも、風味を逃がさないため、山本は時間にも極限までこだわる。だしをとるぎりぎり直前に毎回かつお節を削り、一気にお椀を完成させる。かつお節を削ってから、お椀が客席に届くまで、実に2分以内。ここまで理を徹底するからこそ、山本の料理は、風味が際立つのだ。

写真包丁の細かな動き1つ1つにも、理(ことわり)がある。
写真甘さがにじみ出ると評判のイカの刺身。蛇腹に刻みを入れることで、最も甘いといわれる中央部が露出する。
写真ふたを開けた瞬間、上品な香りが漂う。山本の一番だしを飲むと、多くの客が思わずため息をつくという。


放送されなかった流儀

料理業界の底上げをする

山本は、新たな料理の手法を確立すると、そのワザを余すところなくインターネットで公開している。手順を丹念に撮影し、分かりやすく動画で提示する。また、厨房にシェフ仲間が見学に来れば、質問に何でも応える。
その裏には、驚くべきスピードで発展を遂げている、世界の料理界の現実がある。新たに見つけた可能性を広く発信し、別の料理人にさらにアイデアを付け加えてもらうことで、日本料理全体がダイナミックに発展・進化していく。そんな姿を山本は夢見ている。

写真新しい料理法の撮影をする。深夜の厨房が撮影スタジオに変わる。