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これまでの放送

第189回 2012年2月27日放送

不満足こそが、極上を生む パン職人・成瀬 正



常に、不満足であれ

飛騨高山の地で腕を磨き、クープデュモンド日本代表にまで選出された成瀬。その成瀬を支えてきたのが、日々のパンの出来映えに決して満足しないという、厳しい姿勢だ。膨らみ、香り、味に至るまで、みずからのパンを厳しくチェックし、何が足りないかだけを見つめ続ける成瀬。わずかな不満を改善すべく、生地の仕込みにおいては、塩を入れるタイミングやミキサーの回転数を調整しては、不満な顔を浮かべ続ける。微妙な違いを安易に流さず、徹底的に追求する姿勢こそ成瀬の真骨頂だ。
「99パーセントでも満足と思える人なのか、100パーセントないと満足と思えないのか。僕は、100パーセントに近づきたいので、99パーセントでは満足できない。」

写真わずかな違いも見逃さず、みずからを不満足に追いやる


惰性を 許すな

いま成瀬の元には、全国から弟子が集まってきている。皆、成瀬のように「“故郷”においしいパン屋を開きたい」という若者ばかりだ。そんな弟子たちを教育する際、成瀬が最も大切にしているのは、「惰性を許さない」ということだ。
パン職人の仕事は、日々同じ工程を繰り返すルーティーン。ともすれば“流れ”作業になってしまいがちだ。しかし、自分の焼いたパンのわずかな違いに緊張感を保ち続けられなければ、上達はそこで止まってしまう。だからこそ、成瀬は、常に緊張感を持ち、一瞬の惰性をも排除することを、自分にも弟子たちにも求め続ける。

写真厨房は緊張の連続、表情が緩むことはない


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

満足しきれない、常にやっぱり満足しきれないっていう。そうなってくるともう歩き続けなくちゃいけないので、そういう 人だと思いますけどね

パン職人 成瀬 正


放送されなかった流儀

パンは、五感で作る

パン作りの要は、酵母による発酵と熟成をどのぐらい正確にコントロールできるかにある。発酵と熟成がどのような過程を経て進んだかで、パンの膨らみはもちろん、味や香りも決定的に変わってくる。成瀬は、生地の温度や発酵時間を徹底的に管理することで、発酵と熟成をコントロールしていく。
だが、酵母は目に見えない生き物。それがどのくらい生地を発酵させているかを、正確に把握することは困難だ。この時、最大の武器となるのが、自らの五感だ。視覚や嗅覚、触覚をフル回転させ、窯に入れる最高のタイミングを探り続ける。

写真五感を研ぎ澄まし、発酵・熟成の状態を判断


“目付け”が成長を決める

職人が成長するためには、先輩の技を「盗む」のが基本中の基本。その時、最も大事なのは、「先輩の作業の、どこに目をつけているか」。いわゆる“目付け”だ。成瀬は弟子たちを指導する際、正解を言わず、まず弟子に問う。「どこを見て、どう感じているか」。自分で勘どころを捉えることができなければ、自分の技術のどこを改めるべきか、ポイントが分からず、1人で成長することができないからだ。
職人の本当の勝負は、独立して店を構えた後に始まる。自分の作るパンの評価を1人で受け止め、日々、みずからの腕を磨いていく果てなき道。そのとき頼りになるのは、自分で自分の腕を評価し、ワザを磨いていく、厳しい目。そのために、成瀬は“目付け”の重要性を説く。

写真どこを見て「盗む」か “目付け”は職人の基本