管理栄養士の仕事の柱は、成長期の子供に必要な栄養バランスを考えて、献立を作ること。その献立に基づいて、食材を仕入れ、調理員を指揮して調理を行い、最後の味を決めるまで、その全ての過程に責任を負う。予算は1食平均約250円。だが佐々木は、その制約の中で、単に栄養価を満たす食事ではなく、「本物の味」を出すことにこだわる。
何より佐々木がこだわるのは、地元の旬の食材を手に入れることだ。そのために夏場は、山に分け入って天然のフキを採り、さらに契約農家のトマト畑で完熟のトマトを収穫する。青みが残らず、ヘタの付け根まで真っ赤に熟れたトマトは甘みも新鮮さも段違い。そのトマトを、手作業で1つ1つ湯むきし、丸一日かけてピューレを作る。こうして手間をかけることで、予算のカベを乗りこえていくのだ。
さらに、佐々木の代名詞となっているのが、カレーライス。19種類のスパイスを炒め、3週間寝かせて作る激辛の本格派だ。「カレーは辛いもの。だから子供用のルーは使わない」という佐々木。子供たちも汗をかきながら、挑むように食べる、一番人気のメニューは、卒業生も懐かしむ置戸町の名物料理になっている。
毎年、夏になると佐々木は地元の契約農家のトマト畑で完熟トマトを収穫する
収穫したトマトは、手作業で1つ1つ湯むきして煮込みピューレにする
名物のカレーライスは、19種類のスパイスから作ったルーを3週間寝かせて作る
佐々木は、「子供にこびない、食べ物では甘やかさない」と決めている。子供に食べてもらいたいと思えば、とかく子供の好きなものを、と考えがちだが佐々木は違う。「魚には骨が入っているのが当たり前、気をつけて食べなさい!」と明るくげきを飛ばし、辛いカレーも「試練だと思って食べなさい(笑)」と出す。ニンジン、ピーマンはもちろんのこと、酢のものや骨付きの魚を子供たちが残しても、切り方や調理法、味付けを変えて何度も出し続ける。
その裏にあるのは、子供たちに「味覚を広げてほしい」という願いだ。子供の時の一食一食が、その子の味覚を形成し、将来の食事を選ぶ基準となっていく。その味覚が貧しければ、その食生活は次の時代にも受け継がれてしまう。地元の産物をうまいと感じ、本物の料理を食べたいと感じる、そんな食文化の根本が子供時代に培われると考えるからこそ、佐々木は、本当においしいものをしっかりと教えたいと考えている。
置戸特産のヤーコン。苦手な子供が多い食材だが、佐々木はあえてメニューに加える
給食の時間、子供たちに一口でもいいから食べてもらえるような雰囲気も作る
佐々木が給食を作るとき、最も大切にしているのが、「子供たちは家族」という意識だ。佐々木にとっての給食は、「学校という家で食べるお昼ご飯」だという。
しかし、佐々木がこの考えに到ったのは、わずか10年前のことだ。それまでは、「自分は作る人、子供たちは食べる人」としか考えていなかった。転機となったのは、自信を持って出した手作りのパンが、食べられずに返ってきたこと。
子供たちと一緒に給食を食べてみると、「おいしい」と感じるものの幅が狭くなっていると感じた。子供たちのために自分にできることは何か、考えた末にたどり着いたのが、「生徒全員を自分の子供のように考える」ということ。
これが佐々木の給食作りの原動力になっている。
給食の時間は、子供たちと一緒に食べながら、食べ具合や反応を見る
佐々木が大切にしているのが、「とにかく人と会うこと」だ。ちょっとした時間ができると、佐々木は外に出る。町内の農家から、食品会社、レストランのシェフまで、少しでも気になった人がいれば、すぐに会いに行く。
外に出て人と話すことが刺激になり、新しい食材や調理法など、給食作りのヒントが得られるからだ。
佐々木のメニューの代表、19種類のスパイスを使ったカレーは、ホテルのシェフに頼んで教えてもらったものだ。
自分から積極的に行動を起こし、何事も貪欲に吸収する佐々木の姿勢が、置戸町の給食を日本一と呼ばれるまでに育て上げた。
佐々木は、食品会社の社長からレストランのシェフまで幅広い人脈