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これまでの放送

第194回 2011年12月19日放送

独創力こそ、工場の誇り 町工場経営者・竹内 宏



“発信する”町工場

先が見えない不況の中で、苦戦を強いられている、日本のものづくりの現場。そんな中で、竹内が目指しているのが、「発信する町工場」という姿だ。従業員10名程度の小さな工場ながら、大手メーカーからの下請け仕事に頼らず、独自製品を開発・発信することにこだわっている。
竹内の工場は、元来、プラスチック部品を成形するのに必要な「金型」を作るのが本業だ。金型工場の多くは、大手メーカーからのオーダーを受けて金型を納めている。だが、竹内の工場は違う。独自のアイデアで大胆に改良した金型を考案し、メーカーに逆提案している。その上、17年もの歳月をかけて、加工機械までも独力で考案した。「超小型射出成形機」と呼ばれるその装置は、世界最小クラス。それまで工場の巨大なラインが必要だったプラスチック成形を、卓上で行なうことを可能にし、業界のどぎもを抜いた。
ものづくりに打ち込んできた経験と知恵を生かせば、町工場ほど独自開発に向いている業態はないと竹内は言い切る。自ら発想して製品企画を立て、予算をつぎ込み、オリジナルの商品を開発、それを大手メーカーに売り込むことで、新たな市場を開拓していく、それが竹内の目指す姿だ。

写真17年かけて開発した成形機


オリジナルこそが明日の可能性を生む

竹内が開発の目標に掲げるのは、「今売れるもの」ではない。今すぐには売れないかもしれないが「明日売れるもの」こそ、目指すべきターゲットだ。確かなマーケットが見込めない製品開発には、大きなリスクが伴う。町工場の場合、その選択は工場の存続を左右するものにすらなる。だが変化の激しい今、「明日売れるもの」を開発しておかなければ、明日を生き残ることはできない。だからこそ竹内は、オリジナルにこだわる。
竹内がこれまでに生み出した「ユニット金型」や「超小型射出成形機」などのオリジナル製品は、それまでなかった新たな市場を生み出し、優位な地位を築き上げている。実に50を超えるこうした独自製品が生み出す利益が、今、工場の売り上げのほとんどを支えている。
たとえ今得られる利益は多くはなくても、オリジナル製品が生む価値は限りなく尊いと竹内は考える。

写真独自製品で生き残りをかける


走り続ける信念

独自製品の開発は、ときに何年も日の目を見ない孤独な戦いとなる。成功するのか?果たして売れるのか?だが竹内は、泥沼のような開発の日々でも、決してあきらめようとはしない。あきらめれば、それまでに費やしたすべてが無駄になるからだ。竹内は「走り続ける」ことを信念に掲げている。
この夏、福島の町工場から困難な依頼が舞い込んだ。がんなどの治療に使われる全長1センチ以下の医療部品を、竹内の開発した射出成形機で作りたいという依頼だ。人の体に使うため、わずかな失敗も許されず、しかも、指定された材料は加工が極端に難しいものだった。この精密部品の製作を前に、竹内はかつてない壁にぶつかる。失敗につぐ失敗の連続。竹内は、ある冒険的な秘策で勝負をかける覚悟を決める。この仕事の成否には、工場を営む親子の新たな出発がかかっていた。

写真絶対にあきらめない竹内


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

媚(こ)びないこと、群れないこと、属さないこと、それと、やめないこと、これができる。やめない、あきらめない、これができる方ではないかなと思っています。

町工場経営者 竹内 宏


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

アイデアを生む工夫

数々の独創的な開発で業界を驚かせてきた竹内。その日常には、アイデアを生む工夫があふれている。
たとえば、新製品の設計をしていてアイデアに詰まると、あえて考えるのをやめ「塩漬け」にする。そして、その課題を頭の中の「引き出し」にしまっておき、時間をおいてからまた考える。5分間程度、「引き出しから出し入れ」し、考えてはやめることを繰り返しているうちに、突如、解決策が思い浮かぶことがあるという。
また、さまざまな分野の専門家を集めて「アイデア工房」を開き、議論を戦わせる。前向きに意見を戦わせる中からは、自分の処理能力以上のアイデアが出てくることがあるという。

写真自分の知らないことを知っている仲間に刺激を受ける


放送されなかった流儀

“この子”が、いつか未来を拓(ひら)く

竹内は、仕事の合間をぬって、顧客の元をまわり、苦心して開発した製品が実際に使われている姿を眺めに行く。竹内にとって、自ら手がけた独自製品は、まるでわが子のようにかわいい。そして、“この子”が現場でがんばることで、日本のものづくりの未来へと役立つことを、信じている。

写真“わが子”の活躍を喜ぶ