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第194回 2011年11月28日放送

突き詰めた先に、美は生まれる 数寄屋大工・齋藤光義



仕事を、しない

数寄屋建築は、茶室などに用いられる、日本を代表する建築様式。千利休が大成した茶の湯の文化と密接な関係をもち、400年あまりの伝統をもつ。その特徴はシンプルで洗練された美しさだ。齋藤は、自然のままの木々を巧みに組み合わせ、光の差し込む角度も計算し、絶妙のバランスがとれた心地よい空間を生み出す。
齋藤は仕事の神髄を「仕事をしないこと」と表現する。極めて精緻な計算に基づく仕事を、出来るだけ作為を感じさせないようにする所にこの仕事の妙があるのだという。隅々まで仕事をしていながら、あくまでその仕事を悟られず自然なたたずまいとする。それが、齋藤が目指す境地だ。

写真齋藤は400年の伝統を背負い、技を磨いてきた


突き詰めて、突き詰めて、突き詰めろ

齋藤は設計士が書いた図面をもとに、建築を行う。しかし、その寸法は目安にすぎない。設計図通りの寸法でなく、数ミリ単位の微調整を棟りょうの裁量で施すのだ。
使う木材の年輪から、表面のわずかなくぼみや曲がり具合、さらには50年100年後の木の状態にいたるまで、個性を読む。そしてどのように個性を組み合わせればもっとも美しく、心地よい空間を生み出せるのかを考え抜く。突き詰めぬいた最高の仕事をして、後世に残るような建築をめざす。齋藤は、常にその精神を忘れず、仕事に臨む。

写真100本以上の木々一本一本を吟味する


仕事は、積み木

齋藤はこの夏、東京・白金に新築する茶室に挑んでいた。この大きな仕事を齋藤は一人の若手職人に任せた。工事期間が短く、しかも手間のかかる仕事だった。
時間に追われ、木材の吟味を十分に行わないまま仕事を進めてしまっていた若い職人。その姿を見て、ふだんほとんど口を出さない齋藤が、めずらしくやり直すよううながした。齋藤は、数寄屋建築の道を継いでいく若い職人にどうしても伝えたいことがあった。“仕事は、積み木みたいなものだ。時間がなくとも毎日すべてを尽くした仕事をしなければならない。”その精神をなにより伝えたかった。

写真若い職人と向き合うのも、棟りょうの大切な仕事だ


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

安心して任せられる人。実力があって、優しい人。つまり、大工としての想像力があって、木に優しい人、それがプロやと思います。

数寄屋大工 齋藤光義


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

一見、自然の美しさをそのまま生かしているように見える、数寄屋建築。しかしそこには突き詰められた技の数々がある。
例えば数寄屋建築はシンプルな空間を生み出すために、細い柱で重い屋根を支える。そのために編み出されたのが、「ねじ組み」と呼ばれる木組みだ。いくつもの木に複雑な細工を施し、組み合わせることで屋根の重みに耐えられるようにしている。
木の細工には「丸鑿(まるのみ)」とよばれる刃が湾曲した鑿(のみ)が多く用いられる。木のカーブにあわせて精緻(せいち)に削れるため、丸太どうしを隙間無く密着させることができるのだ。
さらには、木目の美しさを最大限に生かす技もある。齋藤は自宅の庭の井戸に半年前から一本の杉の木を沈めていた。長期間水につけ、木を柔らかくすることで木目にそってきれいに割れるようにする。この美しい木目を、茶室の入り口など特に人目につく場所に用いる。
美を生み出すためにあらゆる技を駆使し、手間をかける。それが数寄屋大工の心意気だ。

写真重い屋根を支えるための「ねじ組み」
写真木目を生かす「へっぺき」と呼ばれる技


放送されなかった流儀

「思いやる心」を、忘れない

齋藤は棟りょうとして、関わるあらゆる人たちへの「思いやり」を忘れない。
例えば依頼主への思いやり。歴史的建造物や、古い木造住宅の修復においては、その建物を後世に伝えたいという思いに応えるため、修復前の古い木材を最大限生かし、修復の痕跡は表面に見えないよう屋根裏などに細工を施し建物を補強する。
また、共に建築に携わる若い職人たちへの思いやりも忘れない。経験は浅くても、やる気のある若手に積極的に大きな仕事を任せる。そして必要以上の叱責(しっせき)はしない。のびのびと仕事をしてこそ、若手も成長し、数寄屋の伝統も受け継がれていくと齋藤は考える。“何事にも思いやりをもった、優しくしなやかな大工”、それが齋藤が考える理想の大工像だ。

写真齋藤はいつも現場で笑顔だ