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第194回 2011年10月31日放送

信頼は、己れの全てでつかみ取る 食品スーパー経営者・福島 徹



売れそう、ではなく 役に立つか、で考える

福島が営む食品スーパーは、40年連続黒字経営。周囲の大手スーパーとのしれつな競争の中をしたたかに勝ち抜いてきた。
安売り広告やチラシを一切使わずに、なぜそんなことが可能なのか?そのカギは、品ぞろえにある。
たとえば野菜売り場に並ぶのは、手に入りにくいこだわりの野菜。福島自身が現場に足を運び、吟味を重ねた逸品だ。農薬も肥料も使わずに育てる「自然栽培」の野菜など、農家から直接仕入れたものが8割を占めている。また、生産者と福島で一緒に開発するオリジナル商品も200種類を超える。素材にこだわるしょうゆやのりなどだ。こうした独自の品ぞろえが、他のどこにもない個性を作り出している。
この品ぞろえを生む大切な信念が、「売れそうではなく、客の役に立つかで考える」というもの。
「売れそうかどうかと考え始めると、売れる理由を考えなくなる」。本質を見極める目利きとして、「ちゃんと客にとって存在意義があり、役立てなければ、生き残っていけない」と福島は言う。

写真部下が仕入れを提案した商品を吟味する会議。「お客さんの生活に役立つか?」を見極める


どちらも損しない関係 それが、利益を生む

客のニーズを満たしつつ、生産者の利益をも生み出す、それが福島のビジネスだ。
例えば、青森の農家と共同で制作している切り干し大根。形が悪く市場に出荷できなかった大根を、福島が機械を購入し、こだわりの切り干し大根へと生まれ変わらせた。今、年間100万円の利益を生むヒット商品となっているが、その利益は、福島と生産者の双方を潤す。こうして、客・小売り・生産者の3者がみんなで得をするのが、福島の目指すビジネスだ。
そのために福島が何より大切にするのが、ビジネスパートナーである生産者との間に信頼関係を築くこと。そのために福島は、取引の中で自分がどれだけの利益を得るか、生産者にもオープンにすることを心がけている。だからこそ生産者は福島を信頼し、商品を安定的に供給してくれるのだ。
「誰かが損して、その分誰かがもうかるって商売は僕は成り立たないと思う。だから僕は商売では難しいが、オープンスタンスが良いなと思っている」と福島は言う。

写真農家は大切なビジネスパートナー。福島が希望する作物や商品を作ってもらうことも多い


いい品は、いい人柄が作り出す

食材の目利きである福島は、全国を歩き回り、その食材の商品性を判断していく。品質はどうか、価格は適正か、安全性は十分に担保できるか?そしてもう一つ、福島が必ず吟味するのが、生産者の人柄だ。
どのような姿勢で食材を作っているのか、そこにどんな思いを込めているのか。その人の姿勢は、食材の品質そのものを決める大切な要素だ。「野菜作ったり、米作ったりするのも、みんな人なんで。作る人の人柄だとか、何についてどう考えてるのかということで、絶対に商品もおいしくなる」と福島は断言する。

写真スーパー業界のトレジャーハンターと呼ばれる福島。全国の田畑を駆け回り、こだわりの食材を見つけ出す


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

どんな状況でも楽しさを見いだし、純粋な心でこつこつと、ひとつひとつ積み上げていける根気力の持ち主だと思います

食品スーパー経営者 福島 徹


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

<目利きの極意>
地方の現場で埋もれた食材を見つけ出す、トレジャーハンター・福島徹。その目利きのテクニックを公開!


匂いを大切にする

福島が、まずこだわるのは食べ物の匂い。野菜や魚はもちろんのこと、豆腐や総菜、加工食品でも福島はまず匂いをかぐ。
風味や鮮度など、さまざまな情報を与えてくれる上、匂いはごまかしにくいからだと言う。
「匂いですから原点は。えぐみが出てるとか、どうも味がぼけてるとか、鮮度古くなってるとか、それがにおいの様子でなんとなく分かるんです」

写真どんなものでも、まず匂いをかぐ匂いはごまかしにくいと言う


感覚を研ぎ澄ませる秘密兵器

目利きに求められるのは、食材の良し悪しを見極めることに加え、価格が妥当か、買い手が欲しがるかなど、客に本当に必要とされる商品かどうかを見極める直感だ。それを研ぎ澄ますための、福島の工夫とは?
それがミセスのプロたち、略してMPSと呼んでいる、近所の主婦たちとのコラボレーションだ。商品を主婦の厳しい目で吟味してもらい、自分の感覚がずれないよう磨き続けるのだ。
ちなみに、MPSとは、Mrs. Pro’s Smileの略。どうしてスマイルなのかと言うと、主婦の笑顔が家庭を照らすと福島が考えているからだ。


いいものは、いい

福島が仕入れをするとき、最も大切にしていることがある。「いいものは、いい」と、自分の評価を周囲の声で曲げないことだ。プロの目利きとして、この覚悟がなければ、仕事をする意味がないと福島は言い切る。
「いいものは、いいということをプロとしてきちっと打ち出せなければ、我々の存在意義は無い」と福島は考えている。

写真食品を扱う仕事として、風評に流されず、「いいものは、いい」と言い切る覚悟がなにより重要だと福島は考える


放送されなかった流儀

売るではなく、伝える

福島にとって、商品を「売る」とは、「伝える」ことだと言う。
良い商品を見極め、仕入れ、そして店に並べる小売り業。売れるかどうかは、客にその情報が伝わるかどうかにかかっている。商品の良さを伝える、商品の価値を伝える。その結果として「売れる」という状態が生まれる、そう福島は考えている。
「小売り屋なんで『売る』と言うことを考えるんだけど、売れるということは、きちっと買える環境を整えられた結果だと思う。だから押しつけるのではなく、伝えるというスタンス。その方針が良いと考えている」

写真「売るのではなく、伝える」この方針を守り、福島のスーパーではチラシなどを一切使わない