

福島が営む食品スーパーは、40年連続黒字経営。周囲の大手スーパーとのしれつな競争の中をしたたかに勝ち抜いてきた。
安売り広告やチラシを一切使わずに、なぜそんなことが可能なのか?そのカギは、品ぞろえにある。
たとえば野菜売り場に並ぶのは、手に入りにくいこだわりの野菜。福島自身が現場に足を運び、吟味を重ねた逸品だ。農薬も肥料も使わずに育てる「自然栽培」の野菜など、農家から直接仕入れたものが8割を占めている。また、生産者と福島で一緒に開発するオリジナル商品も200種類を超える。素材にこだわるしょうゆやのりなどだ。こうした独自の品ぞろえが、他のどこにもない個性を作り出している。
この品ぞろえを生む大切な信念が、「売れそうではなく、客の役に立つかで考える」というもの。
「売れそうかどうかと考え始めると、売れる理由を考えなくなる」。本質を見極める目利きとして、「ちゃんと客にとって存在意義があり、役立てなければ、生き残っていけない」と福島は言う。
部下が仕入れを提案した商品を吟味する会議。「お客さんの生活に役立つか?」を見極める

客のニーズを満たしつつ、生産者の利益をも生み出す、それが福島のビジネスだ。
例えば、青森の農家と共同で制作している切り干し大根。形が悪く市場に出荷できなかった大根を、福島が機械を購入し、こだわりの切り干し大根へと生まれ変わらせた。今、年間100万円の利益を生むヒット商品となっているが、その利益は、福島と生産者の双方を潤す。こうして、客・小売り・生産者の3者がみんなで得をするのが、福島の目指すビジネスだ。
そのために福島が何より大切にするのが、ビジネスパートナーである生産者との間に信頼関係を築くこと。そのために福島は、取引の中で自分がどれだけの利益を得るか、生産者にもオープンにすることを心がけている。だからこそ生産者は福島を信頼し、商品を安定的に供給してくれるのだ。
「誰かが損して、その分誰かがもうかるって商売は僕は成り立たないと思う。だから僕は商売では難しいが、オープンスタンスが良いなと思っている」と福島は言う。
農家は大切なビジネスパートナー。福島が希望する作物や商品を作ってもらうことも多い

食材の目利きである福島は、全国を歩き回り、その食材の商品性を判断していく。品質はどうか、価格は適正か、安全性は十分に担保できるか?そしてもう一つ、福島が必ず吟味するのが、生産者の人柄だ。
どのような姿勢で食材を作っているのか、そこにどんな思いを込めているのか。その人の姿勢は、食材の品質そのものを決める大切な要素だ。「野菜作ったり、米作ったりするのも、みんな人なんで。作る人の人柄だとか、何についてどう考えてるのかということで、絶対に商品もおいしくなる」と福島は断言する。
スーパー業界のトレジャーハンターと呼ばれる福島。全国の田畑を駆け回り、こだわりの食材を見つけ出す
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福島にとって、商品を「売る」とは、「伝える」ことだと言う。
良い商品を見極め、仕入れ、そして店に並べる小売り業。売れるかどうかは、客にその情報が伝わるかどうかにかかっている。商品の良さを伝える、商品の価値を伝える。その結果として「売れる」という状態が生まれる、そう福島は考えている。
「小売り屋なんで『売る』と言うことを考えるんだけど、売れるということは、きちっと買える環境を整えられた結果だと思う。だから押しつけるのではなく、伝えるというスタンス。その方針が良いと考えている」
「売るのではなく、伝える」この方針を守り、福島のスーパーではチラシなどを一切使わない