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これまでの放送

第194回 2011年2月7日放送

漁の神様、誉れの一本釣り マグロ漁師・山崎 倉



釣るのではない 選んでもらう

マグロ釣りの神様とまで呼ばれる山崎。だが、相手にするのは、時に時速100キロ以上で縦横無尽に海を泳ぎ回るマグロだ。しかもマグロは、エサに簡単には食いつかない。どんなに卓越した技術をもってしても、釣れないときはまったく釣れない。山崎はこうしたマグロを釣るための心構えを、「マグロに選んでもらう」と表現する。日本中のマグロを追い、数々の苦渋を味わってきたからこそ、マグロへの敬意を忘れない。山崎ならではの流儀だ。

写真山崎はこの考えのもとたくさんのマグロを釣ってきた


出来ることは、すべてやる

マグロ漁は、大間でトップクラスの山崎でさえ、2~3日に1匹、釣れるかどうかの厳しい世界だ。一週間以上釣れないこともままある。それだけに山崎は、あらゆることを余念なく、やる。日々の技や道具の改良はもちろん、マグロを見つけにくい時化(しけ)の日でも出られるときは必ず沖に出て、漁をする。大時化で漁に出られないときは、船の点検に精を出す。そしてあとは天命を待つ。あらがいようのない自然相手だからこそ、自分が出来る範囲のことはやり尽くすのが、山崎の流儀だ。

写真どんなに疲れていても生きの良いエサを求めてほとんど毎晩夜釣りに出る


110日間の地獄

山崎は、かつて、3か月以上もの間、まったくマグロが釣れなくなる、生き地獄のような体験をした。周りの船は釣れているのに、自分の船にはマグロがかかりさえしなかった。あらゆる努力を尽くしたが、それでも釣れない・・・。その期間は、平成11年の9月9日から12月27日まで、実に110日に及んだ。これは、マグロ漁の最盛期である10月、11月に、まったく収入がなかったことを意味する。
この体験を通して、山崎は自然の中で行うマグロ漁の「おっかなさ」を骨の髄まで味わう。だがこの絶望的な状況の中でも、山崎は努力をやめなかった。そして111日目、山崎は、200キロの大マグロを釣り上げた。山崎は言う。「どんなに努力勉強しても、できないことはできない。だが、それでも努力勉強していくことがなんらかの結論を出してくれる。」あらがいようのない自然の中で、40年以上マグロと向き合い続けてきた山崎の、信念の言葉だ。

写真
写真110日間の体験が今の山崎を作った


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

ライバルを持たないで、自分は自分のマイペースで、とれるかとれないかを追いかける。努力と勉強して、自分でマグロと対決する。

マグロ漁師 山崎 倉


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

マグロの口に針をひっかける技

山崎が「マグロ釣りで最も難しい」と考えるのが、マグロの口元に針をひっかける技術。エサを丸飲みしてしまうマグロの胃袋から、針を引き抜き、口元にひっかけなければならない。そのままにしておけば、釣り糸が鋭い歯で切られる危険が高いからだ。この技の修得の有無が水揚げに大きな差を生む。山崎は、マグロがエサに食いつくと、すぐには引っ張らず、ある程度引かせ、「ここぞ」というタイミングで一気に釣り糸を引っ張り、口元にひっかける。40年以上の漁師生活で体得した、匠(たくみ)の技だ。

写真糸を引くタイミングがポイント
写真マグロの口の横にひっかかればまず逃げられることはない


放送されなかった流儀

満足する

山崎が1日の漁を終えた後、必ず口にする言葉がある。それが「今日はこれで満足」という言葉だ。大きなマグロが上がろうが、まったく釣れなかろうが、例え時化で1時間しか漁が出来なかろうが、沖に出て海を見てこられたことに「満足」し、山崎はその言葉を口にする。かつて、マグロがまったく釣れない日々を味わった山崎にとって、釣れないことよりも、毎日漁を出来ている事実に、まずは喜びを感じ、満足する。そして、毎日の海の様子を見ておくことが、翌日以降の漁につながると、前向きに考える。まったく予測の付かない世界に生きる山崎にとって、このことが、不漁の不安をむやみに重ねない、心のコントロールになっている。

写真まずは沖にでることが、山崎にとって何より重要だ