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これまでの放送

第189回 2010年12月20日放送

試練が自分を強くする プロボクサー・長谷川穂積



強いものと、戦う

長谷川は、2005年にWBC世界バンタム級チャンピオンの座についてから、連続10回の防衛に成功してきた。これは、日本歴代2位に相当する記録であり、長谷川が日本ボクシング史上屈指の名ボクサーと称されるゆえんでもある。だがボクサー長谷川の本当のすごみは、むしろその内容にある。
チャンピオンベルトは、名王者ウィラポン・ナコンルアンプロモーションを打ち破って奪取した。それまで6年間、バンタム級王座に君臨していたウィラポンを判定で破る快挙だった。
さらにその後の防衛戦も、強い相手との対戦にこだわり、倒し続けてきた。10度の防衛戦のうち、世界ランキング1位との対戦は4回を占めている。(1位4回、2位1回、4位2回)。

強いものと戦うことで、長谷川は絶対王者と呼ばれるまでになったのだ。

写真バンタム級時代は10回連続の王座防衛を果たし「絶対王者」と呼ばれた


絶対に、逃げない

長谷川は今年4月、WBO世界バンタム級チャンピオンのモンティエルと戦い、9年ぶりの敗北を喫した。今回11月の試合には、その再起がかかっていた。
長谷川はその試合で、とてつもない挑戦を行った。これまで戦ってきたバンタム級から、クラスを2つ上げ、2階級制覇を狙うのだ。1階級違えば、パンチの重さがまるで違うと言われるボクシングの世界で、一気に2階級上げるのは異例の試み。しかもいきなり世界王座をかけて戦う、困難な挑戦だ。
長谷川は言い切った。
「長谷川穂積の第2章を、自分で作りたい」

しかし、かつての長谷川は、自ら困難に向かっていくような人 間ではなかった。今から11年前、デビュー当時の長谷川は、 「どうせ勝てないだろう」と気弱になり、試合にも負けていた。

デビューから5試合の結果は、3勝2敗。とりたてて目立つような選手ではなかった。
だが、生活態度から対戦相手の研究まで、熱心に指導してくれる山下正人トレーナーや、両親の温かい支えを受け、長谷川は変わっていく。

写真自分の道は、自分の拳で切り開く
長谷川は、困難な挑戦にもひるまない


本物の“強さ”とは何か?

プロボクシングの世界で、常に強さを追い求めてきた長谷川。
本物の“強さ”とは何かと尋ねると意外な答えが返ってきた。

「強さ=やさしさだとは思うんでね。試合が終わって相手をたたえられない人間なんて、そのうちすぐ負けますよ。ボクシングがむちゃくちゃ強いし、周りに対してもむちゃくちゃ優しいやつって、ほんまに強いやつやなと思うんです。強い優しさをもっている、思いやる気持ちが強いやつが、強いやつじゃないですかね」

写真ふだんの長谷川は、礼儀正しく、とても穏やか


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

好きなことを極める人、好きなことを追い求め、自分が納得するまで追い求める人のことをプロフェッショナルと言うんじゃないかなと思います

プロボクサー 長谷川穂積


The Professional's Skills(プロフェッショナルの技)

強さの秘密

バンタム級の王座防衛戦で、10戦のうち、実に7回をKOで勝利してきた長谷川。長谷川はボクシングを、「わなのはめ合い」だと言う。
相手の動きの癖や隙を観察し、おとりのパンチを繰り出して、相手のガードがゆるむ瞬間を狙っていく。世界的なテクニシャンとして知られる長谷川は、徹底的に相手を観察する。相手の「呼吸」をも観察し、相手が息を吐ききった瞬間を狙うと長谷川は言う。
「息を吐いた時、無防備ですから。吐いた瞬間ですよ」
驚くべき観察眼が長谷川のボクシングを支えている。

写真極限状態を何度もくぐり抜けてきた長谷川。
奥深い哲学を持つ


第3の気持ち

そして、ボクシングで絶対に欠かせないのが、相手にひるまない気持ちの強さ。とりわけ長谷川が大事にしているのが、窮地で初めて覚醒するという、心の奥底の強さだ。長谷川はそれを「第3の気持ち」と呼んでいる。
長谷川が言う「第1の気持ち」とは、相手と初めて向き合う時の気持ちのこと。そして「第2の気持ち」とは、相手に殴られ、思わず「怖い、どうしよう」と感じる時の気持ちだ。 だが長谷川は、そのさらに奥に、絶対の窮地になって初めて覚醒する、「第3の気持ち」が潜んでいるという。

「もうどうしようもない、絶体絶命のピンチになった時に、無心で起きる気持ち。それが第3の気持ちです。」 「(無意識になった)その時に、気づいたらバーッと逃げていた、となるのか、気がついたら向かっていたとなるのか。俺は第3の気持ちは、たぶん強いと思いますよ。」

極限のピンチに追い込まれた時、初めて目覚める第3の気持ち。 それもまた、長谷川の強さの秘密だ。

写真


放送されなかった流儀

不安だから、強くなれる

試合への道のりは、不安との戦いでもある。どれだけ努力を重ねても、不安が消えることはない。そんな不安を長谷川は、前に進む力に変えるという。
「負けるかも知れないという不安があるからこそ、練習に集中できるし、必死に努力できる」
リングに上がった時、不安を払拭できる根拠はただ一つしかないと長谷川は言う。それは、「自分が納得しきるまで練習した」という自信だ。
不安から逃げず、むしろそれを受け止め、練習への原動力にする。それが長谷川の勝負への構え方だ。

写真練習で長谷川は一切妥協しない
とことんまで自分を追い込む