海外の美術館からも、その腕を高く評価される岩井。特に、評価が高いのが、絵の具がはがれた部分に色を補う「補彩」の技術だ。補彩に要求されるのは、周囲の色との完ぺきなマッチング。後から手を加えたことが分かるように、合成樹脂の絵の具を使って、違和感のない発色を作り上げていく。
この時岩井が考えるのは、単に「はがれた色がどんな色か」ということだけではない。その画家がどんな技法で描いたのか、そして、画家がどんな思いで描いたのかにまで、思考を巡らせていく。岩井が目指すのは、画家の「心」を再現することなのだという。画家がなぜそうした筆づかいを残し、そうした色を使ったのか。岩井は観察に観察を重ねて、探っていく。岩井にとって、修復とは、色を合わせる機械的な作業ではなく、作者の思いに出来る限り寄り添うものなのだ。