北島は北京オリンピックで2種目連覇を果たした後、プールを離れた。空白の期間は、アスリートとしては異例の10か月にも及んだ。去年6月、北島は練習を再開。だがその場所は、慣れ親しんだ日本ではなく、アメリカだった。
今、北島は、カリフォルニア州サンタモニカで1人暮らしをしながら、南カリフォルニア大学(USC)競泳チームで、1人の練習生として、自分の泳ぎを磨いている。
ここでの練習の特徴は、自主性が重んじられていることだ。何をテーマに練習するのか、どんな目標に向かって泳ぐのか、すべて判断するのは選手自身だ。個人用の特別メニューはなく、豊富なメニューが組み合わされた全体練習の中で、自分でメニューを選んでいく。それは、金メダリストの北島といえども例外ではない。
これまで、名コーチ・平井伯昌さんの下、二人三脚で、泳ぎを磨き上げてきた北島が、なぜこの場所を新たな拠点に選んだのか?
その裏には、新たな環境に身を置くことで、水泳へのみずみずしい情熱をもう一度よみがえらせたいという、トップアスリートならではの強い思いがあった。知らず知らずにつきまとう重圧を離れ、水泳を始めた少年時代のドキドキ感を思い出したいと北島は考えていた。