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第132回 2010年1月5日放送

命の農場で、土に生きる 農家・金子美登


ベストを尽くして、我慢する

農薬を使わない有機農業は、疫病や害虫などの影響で毎年豊作になる事は難しい。昨夏も雨続きの中、金子の畑にもトマトに疫病が発生した。
金子は、すぐに考えられるあらゆる手を打った上で、その結果を天にゆだねる。豊作や凶作に一喜一憂するのではなく、芳しくない場合は潔くあきらめる精神力を持たなければならないと金子は言う。そうでなければ農薬を使わない有機農業を行うという大切なポリシーが貫けないと考えるからだ。
取材中も、何度も何度も「我慢だ、我慢だ」とつぶやく金子。自然とは完全にはコントロールできないもの。それと戦うのではなく、我慢してつきあう事が必要なのだ。

写真小さな雑草も一つ一つ手で抜く金子。できることを全力で行い、あとは天にゆだねる


作物の“声”を聞け

6月中旬。金子は、田植えの季節を迎えていた。折り悪く、田植えをすると決めていた日は大荒れの天気となった。それでも金子は田植えのスケジュールを変えずに淡々と仕事をこなした。それは金子が作物の「声」を何よりも大切に考えているからだ。金子が「声」と呼ぶのは、種まきの時期や育て方など作物たちに適したタイミングや、作物からのサイン。その声に反して人間の都合で作物と接すると、決してよい結果が生まれないと考えている。土に栄養がしっかりとあり、作物の声に耳を傾けて育てれば、人間は多く手をかけることなく、少し手伝うような作業だけで大きな収穫が得られると言う。

写真たとえ大荒れの天気でも、金子は作物の声を大切にして作業を行う


困難こそ、楽しめ

昨夏、金子は16年ぶりのピンチを迎えていた。日本中で凶作となりタイ米を輸入した、あの1993年以来の日照不足に見舞われたのだ。畑ではトマトやスイカなどが不作。その中でもっとも深刻な影響を受けていたのが米だった。
イモチ病という伝染病が発生し、大凶作となる可能性が出ていた。農薬を使わずにどうやって病気を抑えるか、金子は必死に策を考えていた。
どんな困難な状況になっても、金子は磨いてきた技術で工夫をしたり、新たな対策を試す。そして、それこそが面白いと語る。厳しい状況であればあるほど、工夫の余地や新たな技を試すタイミングとなるのだ。
今回、金子が採った策は、本来は稲の栄養を奪う天敵の雑草をあえて伸ばすことで、病気を抑えようというもの。金子にとって初めて行う逆転の一手。成功するかどうか分からないが、新しい方策を試すチャンスととらえ、新しい技を試す。

写真どんなピンチに陥っても金子は笑顔を絶やさない


プロフェッショナルとは…

地球の生命とか人類の危機が叫ばれている中で、100年先まで永続するような匠の技をもった人がプロフェッショナルと思います。

金子美登

The Professional’s Tools

金子式畑

一見普通に見える金子の畑だが、そこには何十もの技が込められている。スタジオには金子が自らの畑を再現してくれた。
例えば作物同士を組み合わせる方法。金子はイチゴの隣にニンニクを植えて土の中で二つの根を絡ませる。ニンニクの根から出る拮抗菌という抗生物質でイチゴの病気を抑えるためだ。さらに、害虫が発生しやすい作物の周りには、害虫の天敵を呼び寄せる作物を植えたり、畝の形を作物によって変えるなどあらゆる技術が濃縮されている。

写真イチゴと組み合わされて、ニンニクが植えられている。


腐葉土

金子の農業の基本となるのが腐葉土。落ち葉やもみ殻などを重ね合わせて発酵させた栄養豊富な土だ。自然の森では何十年もかけてできあがるが、何度も切り返し混ぜ合わせることで同じ土を一年で作る。発酵中の腐葉土は微生物の働きにより、湯気が出るほど熱を持つ。この土をきちんと作れるかどうかが金子の農業を大きく左右するだけに、腐葉土が豊富にあると安心すると金子は語る。

写真土の中にはみみずや蛾(が)のサナギなど生き物の宝庫だ


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