競馬の主役は、馬。しかし、馬はレースの距離やペースなどはまったく分かっていない。騎手は、そんな馬をコントロールして勝利に導くことが求められる。そのために武は、馬を気持ちよく走らせること何より大切にしている。馬の負担を減らそうと、ひざや足首をサスペンションのように使い、体の上下動を抑える。さらに馬への指示も最小限、馬に余計な気を遣わせない。それでいて、馬を巧みにコントロールするのが、「天才」と呼ばれる武の真骨頂だ。
競馬の主役は、馬。しかし、馬はレースの距離やペースなどはまったく分かっていない。騎手は、そんな馬をコントロールして勝利に導くことが求められる。そのために武は、馬を気持ちよく走らせること何より大切にしている。馬の負担を減らそうと、ひざや足首をサスペンションのように使い、体の上下動を抑える。さらに馬への指示も最小限、馬に余計な気を遣わせない。それでいて、馬を巧みにコントロールするのが、「天才」と呼ばれる武の真骨頂だ。
デビュー以来、武は、「最高の騎乗は何なのか」この問いの答えを探し続けてきた。
しかし、馬はしゃべらない。正解は一生分からない。そんな厳しい世界の中で、武を突き動かすのは、「いい騎手になりたい」というシンプルな思いである。
武は、華々しい活躍の陰で、どんな小さなレースでもビデオで自分の騎乗を見直す。その騎乗は最善のものだったか、自分自答を繰り返す。高みを目指す孤独な闘いに妥協はない。
世界最高峰のレース・凱旋(がいせん)門賞。武は今年、その4度目のチャレンジを臨んだ。さまざまなプレッシャーがかかる大一番、武は一つの思いを胸にする「いつも通りにやる」。「プレッシャーがあってもなくても、ほんと一緒なんです。目指すものも、出したい結果も、やることも」淡々とレースに臨む。そして、淡々と厳しさに向き合う。
馬にゴーサインを出すために使うのが、ムチ。すべてオーダーメイドで作られている。武は、毎レース、馬に合わせて使うムチを変える。しなり具合、重さ、わずかな違いにも気を遣う。道具にも、馬への配慮が表れている。
2008年、天皇賞(秋)を勝った時の鞍。騎手はレース中、この鞍の鐙(あぶみ)という部分に親指をかけるだけでバランスを取っている。時速70キロ近くの馬上で、武は一定の姿勢を保つことで馬への負担を減らす。