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第94回 2008年7月22日放送

ハンマー一筋、新幹線を作る 板金職人・国村次郎


ムダに打たない

工場長として11人の職人を束ねる国村だが、今も職人として現場に立ち続ける。
金属加工の技術は、業界でも指折りだ。最も得意とするのは、ハンマーなどを使い、金属の板から曲面を作る「打ち出し板金」だ。一見単純に見える作業だが、そこには並外れた職人技が隠されている。国村が放つハンマーは、常に板に垂直、しかも狙った場所を正確に打つ。そのために、左手と足で、金属の板を微妙に動かす。職人として、いかに無駄なく、早く品物を作り上げるかに徹底してこだわる。ハンマーは必要最小限のみしか打たない。金属の特性を知り尽くした国村は、どこをどの程度の力で打てばよいか読み切っている。作業にかかる時間は、他の職人の半分。驚くべきスピードで、美しく正確な曲面を生み出していく。

写真
写真足を使いながらハンマーを振る


出来ないとは、言わない

国村は17歳から板金の世界に飛び込み、小さな町工場で腕を磨き続けてきた。当時鉄道の仕事は少なく、町工場(まちこうば)で働く国村は「出来なければ、次の仕事はないかもしれない」というプレッシャーと闘いながら、食いつなぐため、鉄道以外の仕事もこなしてきた。
そんな国村たちに大きな仕事が舞い込んでくる。新幹線を超える超高速車両、リニアモーターカー ML-500。しかしそれは途方もなく難しい仕事だった。素材の超ジュラルミンは反発力が強いため、ハンマーでたたいても、思うような曲線が作れなかった。国村は必死で素材とむきあい、全神経を集中し、ハンマーをふるった。そして3日がかりで、美しいカーブをもつ部品を仕上げた。「出来ないとは、言わない」という不屈の精神は、小さな町工場で鍛えられた。

写真リニアを完成させた時の国村さんの写真


向き合うのは、自分

今63歳の国村は、日々、職人として現場に立ち続ける一方で、後に続く職人の育成に力を注いでいる。去年、国村の工場に10年ぶりに入社した若者がいる。仕事の飲み込みが早く、光るものがある。国村はこの若者に「打ち出し板金」を一から教え始めた。
最初に任せたのは、実際に新幹線の天井に使われる部品の仕上げ。しかも、国村は一切手を出さず、たったひとりで板に向き合わせた。しかし、うまくいかず、板は出荷できない状態になった。それでも国村は、最後まで自分の力で仕上げることを求めた。若者に板金の仕事のだいご味を伝えるためだった。

写真向山さんを見つめる国村さん


プロフェッショナルとは…

立ち止まらずに前に進むことでしょうね。自分の技術をとめないで、まだまだ自分の技術を磨いていくということ。

国村次郎

The Professional’s Tools

ハンマー

数々の新幹線の“顔”を作り出してきたのが、国村が愛用するハンマー。国村は、その仕事に応じて、8本のハンマーを使い分ける。ハンマーの先は、ひとつひとつ丸みが違う。金属をたたく際に、そのカーブに合わせて、国村が自ら削り作り出したものだ。さらに、細長いハンマーは、金属を溶接して長さを伸ばすなど、道具にはさまざまな改良が加えられている。

写真


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